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開業医が知っておくべき生命保険の選び方(令和版)

 開業医の先生方から、「開業医が加入しておくべき生命保険は?」というご質問を時々いただきます。

 ただ開業医といっても、個人開業と法人開業では少し事情が異なりますので、先生方に知っておいて頂きたい生命保険の選び方について整理をしながら解説します。

 

生命保険が必要な開業医とは?

 

 そもそも生命保険とは、保険の対象である被保険者が亡くなった際や、病気や要介護状態などになった際など、保険金支払事由に該当すると保険金が支払われ、それにより経済的負担を軽減することが出来る金融商品です。

 ですので、大前提として現預金などの金融資産がどれだけあるか?によって必要な保険金額が異なります。

 まずは、具体的にどのような資金が必要になるかを確認します。

 

借入金返済資金

 

 開業時やクリニックの移転・改装、医療機器の購入・買い替えなどにより、金融機関から借金をしている開業医で、一括返済できるだけの金融資産が手元にない場合には、生命保険による保障を確保しておく必要があります。

 これは、個人開業・法人開業ともに同じですが、法人開業の場合には、受け取る保険金は益金課税の対象となるために、保険金に対する税金も考慮した上で、金額を設定する必要があります。

 なお医療法人の場合、金融機関からの借入金以外にも、理事長や理事が法人に貸し付けている「役員借入金」も多く見受けられますが、「役員借入金」も金融機関からの借金と同じ様に、有事の際には返済しておく必要がありますのでご留意下さい。

 

【参考:役員借入金の対策】

 

スタッフ退職金

 

 開業医が亡くなった場合や、病気や要介護状態などにより診療が出来ない場合には、クリニックを閉鎖することになります。この際、閉鎖にともなう各種費用が発生しますので、この閉鎖費用をまかなえるだけの金融資産がなければ、生命保険による保障が必要になります。

 クリニックの閉鎖費用は、テナント開業の場合には、賃貸契約解除に伴う家賃支払いや現状回復費用、リース精算費用などもありますが、一番高額になると予想されるのが、スタッフの退職金です。

 スタッフの退職金については、中小企業退職金共済制度などを活用して準備している開業医も多いですが、規定上の支給額と実際の積立額に乖離があるのかどうか?はチェックしておく必要があります。

 

生活資金・教育資金

 

 ご子息様がまた独立をしておられない開業医の場合には、ご家族の生活資金や教育資金についても準備をしておく必要があります。特に、ご子息様が先生方と同じ医療の道へ進む場合、教育資金は多額になることが想定されます。

 ただこの生活資金・教育資金は、無事に医院経営を続けていても必要となる資金ですので、収益・所得を考慮しつつ、将来への備えとしての資金準備を検討する必要がありますので、ご注意下さい。

 

相続対策資金

 

 先生方がお持ちの資産が、現金や有価証券といった流動性が高く換金しやすい資産ばかりであれば問題はありませんが、ご自宅や医院の土地建物、経過措置型医療法人の出資金や未上場株式など、換金しにくい・出来ない資産をお持ちの場合には、相続税納税資金の確保が必要になるケースがあります。

 さらには、相続人同士での揉めごとや争いごとを回避し、遺産分割協議を円満に行うための資金の準備も必要な場合があります。

 この様な相続対策資金準備には、亡くなられた際に保険金が受け取れる生命保険は、非常に大きな効果を発揮します。

 

法人開業の場合の留意点

 

 最近では、医療法人だけでなく一般社団法人による診療所経営を行っておられる開業医も増えてきました。法人にて開業をしている場合の留意点としては、上記以外に「死亡退職金」が相続人に支給できる点です。

 

 死亡退職金のポイントは、

 

  • 法人が支給する退職金額は、税法上の損金額に関わらずに、相続人にとって必要な金額を払えるだけ支給すること
  • 相続人が受け取る死亡退職金は、相続税法第12条1項6号の非課税枠の適用がうけられること

 

の2点です。

 このために、法人の内部留保額の大小に関わらずに、生命保険を活用して死亡退職金準備を検討することは、重要なポイントです。

 

生命保険活用のポイント

 

 生命保険を検討する際のポイントは、「期間」「積立金の有無」「保障に対するコスト」の3つです。

 法人においては、2019年以前は法人における損金算入割合と解約時の返戻率もポイントの一つになっていましたが、2019年の法人税基本通達改訂により、税効果メリットは消滅しましたので、検討するポイントにはなりません。

 

【参考:税制改正後の法人生命保険】

 

①期間

 

 生命保険による保障が必要な期間を想定して、保険期間を設定します。先生方のご年齢やご家族構成、開業年数などによっても異なりますが、一般的には 

借入金対策資金と生活資金・教育資金 ⇒ 短期~中期

スタッフ退職金 ⇒ 中期~長期

相続対策資金 ⇒ 長期

という時間軸で検討するのが良いでしょう。

 

②積立金の有無

 

 生命保険は保障を確保するだけでなく、満期時や途中で解約した場合に資金が戻ってくる資金積立機能がある商品もあります。

 マイナス金利下においては、生命保険会社が約束する予定利率も低水準になっているため、円建て&定額の保険商品においては、積立金の魅力はかなり少なくなっていますが、外貨建てや変額タイプの保険であれば、保障を確保しつつ、ある程度の積立額も期待出来るため、検討の余地は十分にあります。

 ただ、積立金のあるタイプとないタイプであれば、毎月支払う保険料は積立金がないタイプの方が安いため、目的や期間・キャッシュフローなどを踏まえた上で、無理なく支払が出来る保険料水準に抑えるべきでしょう。

 あと注意すべき点は、保険金と積立金の両取りは基本的に出来ないという点です。

 例えば、一生涯の保障が確保出来る終身保険に加入すると、保険料は高いですが、途中解約した際に戻ってくる解約金もあります。ですが、死亡保険金が支払われる場合には、積み立てられている解約金を受け取ることが出来ませんし、途中で解約をして積立金を解約返戻金として受け取った場合には、死亡保障は無くなります。

 当然といえば当然なのですが、この点を踏まえた上で、積立金の有無は検討することをオススメします。ただし、一部保険会社の一部保険商品を上手く活用すれば、この問題を回避することは可能です。

 

③保障に対するコスト

 

 コストの高い安いは、絶対額である保険料額で判断するのではなく、保障額に対する年間保険料を目安にすると検討がしやすくなります。

 これまで説明をしてきました必要額を算出した上で、その必要額に対して幾らの負担か?で判断をしてみて下さい。

 例えば、算出した必要保障額が1億円だった場合。年間に支払う保険料が100万円であれば、保障額に対する保障コストは1%になります。仮に年間に支払う保険料が300万円であれば、保障コストは3%ということになります。

 年齢や性別・保険期間・保険商品などによって保険料が変わりますので、保障額に対する年間コストを算出することで、適切なコスト感を把握することが可能になります。

 前述の通り、積立機能を持たせると保障コストは上昇しますし、積立機能を持たせなければ保障コストを抑えることが可能になります。最適解は、ライフプランや経営計画・人生計画によって変わりますので、ご自身の医院経営・人生設計に合わせて検討してみて下さい。

 

最適な生命保険商品の選び方

 

 ここまで書いてきたことを踏まえて保険商品を検討して頂くと、ある程度は実態にあった良い保険商品を絞り込むことは可能になります。

 ただ注意して頂きたいのは、生命保険商品は非常に長い期間の契約となりますので、目先の保険料や保障内容にだけではなく、先々にメンテナンスが出来るかどうか?も重要なポイントになります。

 例えば、医院経営や家族の状況が変わった時に、他の保険契約へ「変換」が出来るかどうか?とか、保険期間や払込期間の延長や短縮などの変更が出来るかどうか?や、保険料の払込を停止しても保障が継続する「払済」や「延長保険」への変更が出来るかどうか?など、同じ生命保険商品でも、各社取扱が異なります。

 この活用方法の詳細はプロにしか分からない分野ですので、目先の保険料や保障内容だけで保険商品の良し悪しを判断せずに、生命保険商品を知り尽くしたプロにご相談下さい。

 さらには、医療機関経営に詳しい保険のプロへご相談されることで、より最適な保険商品選びが可能になります。

 

 先生方の生命保険選びの一助になれば幸いです。

 

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<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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