COLUMN

要注意!中小零細企業における自社株問題

「自社株問題」と書くと、財産権としての評価額の問題をイメージされる方が多く、儲かっている法人や資産を多く保有している法人をイメージしがちです。当然ながらその側面もありますが、決して忘れてはいけないのが、経営権の問題です。

一株でも保有していれば、株主としての権利が行使出来ます。一株で行使出来る代表的な権利は株主代表訴訟提起権です。

 

株主代表訴訟とは、役員の意思決定や行動などにより会社に対して損害を与えたにもかかわらず、会社がその責任を追及しない場合に、株主が所定の手続を経たうえで会社に代わってその会社役員の責任を追及する訴訟を提起できる制度です。

 

最近では2022年7月に東京地裁で出された東京電力の判決が有名です。

その他、大和銀行やオリンパス・東芝など大手企業での訴訟が有名ですが、株主代表訴訟は上場企業だけでなく、中小零細企業においても起こりうる問題です。

 

特に中小零細企業では、少数株主を作らない様に自社株問題を考えておく必要があります。

 

ですが、中小零細企業、特に小さな法人の場合、自社株問題は放置されているケースが非常に多いように感じています。

 

経営者が、規模が小さく収益もそれほどないので、「株式に価値がない」と判断し、見過ごされているケースは多いと思います。

 

さらに顧問税理士や保険営業といった外部の人間も、財産権としての自社株式の評価がゼロか高くないために、見過ごしていることも要因として考えられます。

 

先日、改めてこの問題を考えさせられる事例がありました・・・

 

社長と奥様と息子さんの3人で経営している小さな法人で、年商は約1億円弱の規模です。

 

この法人の利益は、借入金返済が出来て納税が出来る程度にあがっており、それほど悪い内容ではありません。

 

ただ、過去からの繰越欠損金があり、現時点でも債務超過となっており、相続税法上の自社株評価をすれば多分0円だと思われます。

 

社長と奥様はそろそろ息子に引き継いで、息子が引き継いだ事業を手伝いながら、自分達が暮らしていけるだけの給与を貰えれば良いとのお考えでした。

 

小さな法人で内部留保も積立金もないので、役員退職金は、ほぼ取れないか取れてもわずかな金額のイメージでした。

 

社長交代のご相談を頂き、決算書を拝見して現状を確認した内容はこんな感じでした・・・

 

確かに利益はわずかで、内部留保も少なく債務超過が続いているので、たしかに株価は0円であると思われます。

 

ただ、役員報酬は、ご夫婦と息子さん合わせて年間で1,200万円ほど取っておられました。

 

さらに詳しくお聞きすると、息子さんは次男で、長男は会社員・三男はトラック運転手と、まったく事業に関係ない仕事をされているとのこと・・・

 

ここで真っ先に指摘したのは、自社株の問題です。

 

ご夫妻の資産は、住宅ローンが終ったご自宅があるだけで、金融資産もあまりなく、前述の通り自社株も財産権としての価値はありません。

 

ですので、相続税という観点では全く問題はないと思われるのですが、この事業を引き継ぐ次男と、事業を引き継がない長男・三男との財産分割は揉める要素があることをお伝えしました。

 

財産評価上の価値はない自社株ですが、普通に経営していれば、役員報酬1,200万円は貰える事業なので決して悪くはありません。

 

ましてや長男や三男が、高給取りで裕福な生活が出来ているとは思えないために、事業を引き継いだ次男と引き継がなかった長男・三男との間に不公平感が出て揉める可能性です。

 

もちろん、次男は経営者として、すべてのリスクを背負って経営をしていくので、報酬は当然と言えば当然ですが、事業を引き継いでいない長男と三男、そしてその配偶者がどう考えるか?はハッキリ言って分かりません・・・

 

このことが、将来のトラブルの火種になる可能性があることをお伝えすると、ご夫妻とも全く想像もしていなかったことを指摘された様子で、かなり困惑されていました。

 

奥様からは、

「それなら不公平にならない様に、株を3人で均等に分けてはダメなんですか?」

という質問を頂きましたが、長男と三男の株数を合わせれば2/3になりますから、特別決議が決議出来ることになりますので、絶対に他の兄弟に株式を渡してはいけないことを説明しました。

 

将来の火種を残さない様にするための対策は幾つかあることをお伝えし、今後一つずつその対策を実行していきますが、このような法人はまだまだ沢山あるのでは?と思います・・・

 

一定規模以上で、財産権としての自社株評価が高額になっている経営者の多くは、すでに自社株問題を認識して対策を講じているケースは多いです。そしてこの様な法人には、銀行や証券、保険だけでなく税理士などがいろいろな情報提供やアドバイスをすでにしているケースが多いと思います。

 

ですが、小さな法人の場合は、本件の様に自社株問題が見過ごされていることが多いのではないでしょうか?

 

後継者へ事業を引き継ぐ際は、自社株を財産権としての価値だけでなく経営権としての価値にも注目し、将来問題が起きないように対策を検討する必要があります。

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

 

弊社では自社株問題も含めまして、経営者が抱える様々な問題に対して、各種専門家と連携をして解決策をご提供しております。ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせフォームよりご相談下さい。

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