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経営者が知っておくべき相続放棄の注意点

私の父は20数年前、事業に失敗をして自ら命を絶ちました・・・。その際、莫大な借金を抱えていましたが、相続放棄をして残された家族が助けられた経験があります。
 
 
今回は、リスクを背負って事業をしている経営者には、知っておいて頂きたい相続放棄の注意点について解説を行います。
 
 
まずは、相続が発生した際に相続をするのかしないのか?というところから始まります。
 
相続が発生すると大きく分けて
「単純承認」
「限定承認」
「相続放棄」
の3つに分類されます。
 
 
相続をする場合にはごく普通に相続をする「単純承認」と負債の範囲内で相続をする「限定承認」そして負債が多い場合に負債だけでなく資産も放棄をする「相続放棄」があります。
 
 
まず最初の「単純承認」についてですが、ここに要注意点が含まれています。
 
 
この単純承認についての規定は民法921条にあります。
 

第921条(法定単純承認)

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

 

ここでポイントになるのが、相続人による相続財産の処分をすると「単純承認をした」とみなされるという事です。

 

例えば葬儀費用を相続財産から支払う事については、判例において社会的に不相当な額でなければ民法921条で規定されている財産の処分には該当しないとされています。

 

ではどのような行為が処分行為に該当するのでしょうか?

 

〇原則として単純承認とみなされる主な行為

・不動産、動産、その他の財産権の譲渡

・家屋の取り壊し

・預貯金の解約・払戻後の費消

・被相続人の株主権行使

・遺産分割協議

・賃貸物件の賃料の振込先を自己名義の口座に変更した行為

 

〇原則として法定単純承認に該当しない主な行為

・遺体自体や身の回りの品、僅少な金銭の受領

・交換価値のない物の形見分け、多額遺産中の僅かな物

・遺産による葬儀費用や治療費の支払い、墓石、仏壇の購入

・被相続人の債務の弁済

 

この単純承認としてみなされる場合の「株主権行使」「遺産分割協議」に注意が必要です。

 

例えば法人契約の生命保険があり、代表取締役が死亡して、保険金請求をするシーンを想定して下さい。

 

代表取締役が死亡をしていますから、奥様等の親族へ代表者変更を行い、変更登記を行ったのちに保険金請求をする事になると思います。この際に、定款上で代表取締役の選出が株主総会決議事項となっていれば、株主総会を開いて決める必要があります。

 

この時点において遺産分割協議が終わっていない状態であれば、死亡した代表取締役が持っていた株式については共有状態になっていますから相続人全員が、株主として株主の権利を行使して代表者を選出します。

 

そして株主総会決議を経て、代表者変更をして保険金請求を行い、保険金を受け取るのですが、ここで株主権行使をしていまっているので相続人全員は相続放棄が出来ないことになります。

 

ご存じの通り、生命保険金や死亡退職金は本来の相続財産ではありませんから、相続放棄をしても受取る事は可能です。

 

ですが、死亡退職金として支給するために保険金請求を行う手続き上として、代表者変更を行い、その変更手続きが定款上で株主総会決議が必要とされていれば相続放棄は出来ないことになります・・・・

 

 

話しを戻しますと、負債が多く社長が連帯保証人になっている場合に、「生命保険を使って備えておきましょう」と保険営業パーソンから提案を受けてご契約をされているケースは非常に多いと思います。

 

そして実際に不幸にもその社長が死亡し、相続が発生した場合に受取保険金で、借金を返しきってなおかつ死亡退職金が支給出来るだけの保障があれば問題はありません。

 

ところがそれほど保障が大きくなく、借金返済が十分に出来ないので、保険金での借金返済をせずに死亡退職金として支給し、相続放棄をして法人を閉じようとする場合に定款に不備があれば相続放棄が出来ない可能性があるという事です・・・

※これは下手すると詐害行為として金融機関から訴えられるリスクがありますので、実際に行う場合には専門家に相談してください。

 

折角、法人で生命保険に加入しても保障額が十分でなければ、定款まで整備をしておかないと予期せぬ事態になるリスクがあります。

 

ちなみにこの対応策としては、

①代表取締役の選出は、株主総会決議ではなく取締役の互選とする定款に変更しておく。

②退職金の支給額については、株主総会決議ではなく取締役会決議とする定款に変更しておく。

③取締役の就任については株主総会決議が必要なので、事前に親族を取締役に就任させておく。

以上の3つを行っておく必要があります。

 

ただし、退職金支給を取締役決議とする場合、税務上の問題が生じる可能性がありますので、実際に行う場合には専門家へ相談してください。

 

もっとも、法人で加入する生命保険金を「借入金返済+法人税納付額+死亡退職金額」まで考慮して、十分な金額であれば、これらの問題は発生しません。そのために借入金額がある場合には、法人で加入する生命保険金額は定期的に見直しをして「少し多い目」くらいに掛けておくのが良いでしょう。

 

法人で加入する生命保険金の考え方はコチラのコラムをご参照下さい。

経営者の保障額は幾ら必要か?

 

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<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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