COLUMN

医療法人化を検証する

以前にも「医療法人化のメリットとデメリットを考える」で書きましたが、やはり本来であれば医療法人にすべきでないクリニックが法人成をしている事例が散見されます。

 

最近も何件か医療法人運営についてご相談を頂きましたが、どの事例も医療法人成りすべきでないクリニックが医療法人成をして行き詰まっている状態でした・・・

 

今回は以前の記事を踏まえつつ、医療法人化することの是非について確認をしたいと思います。

医療法人化のメリット

まずは医療法人成のメリットを列記します。


医業経営の安定化


税引後利益を増やす事が出来るために、医業経営の安定化と拡大化が図れる。


相続・医業承継の円滑化


持分なし医療法人であれば、医業用資産の法人保有化により相続税課税の対象額を引下げる事が出来る。

同時に社員を交代するだけで引き継ぐことが可能となり、承継がしやすくなる。


事業展開の幅広さ


有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅の設置、特定労働者派遣事業の運営など各種附帯事業が行える。なお医療法人であれば分院開設も可能。


税の軽減


診療報酬部分については事業税が非課税となり、実効税率が約30%(800万円超の所得)と、所得税率と比較をして税負担額を軽減する事が出来る。

役員報酬にすることで給与所得控除も活用出来るのでトータルの税負担はかなり減らす事が可能。


社会保険診療報酬の源泉徴収がなくなる


個人開業時には、社会保険診療報酬の約10%が源泉徴収されるが、医療法人ではこれがなくなるために資金繰りが楽になる。


役員退職金の支給が出来る


退職時の役員退職金支給だけでなく、弔慰金支払も可能となり、相続発生時のメリットも享受出来る。


保険料の損金算入可


一般法人と同じく、一定のルールに則った形で支払保険料を損金計上する事が出来る。

ただ令和元年の法人税基本通達改定で生命保険を使った課税繰延スキームの効果が無くなったので、実質的にはメリットとは言えない。


繰越欠損金の計上


個人は3年。法人は10年

 

医療法人化のデメリット

次に医療法人成のデメリットを列記します。


理事長個人の可処分所得減少


法人と個人の2つの財布が出来るが法人の資金は自由に使えないために可処分所得が減少する可能性大。


医療法人の資産の私的処分不可


生命保険を使った資金移転スキームなどは配当類似行為として医療法違反となり不可。


医療法人運営上のリスク


社員構成を間違えたり、社員間の不和が発生すると医療法人運営に支障を来たし、最悪の場合には追い出されるリスクあり。


厚生年金の強制加入


従業員数に関わらず厚生年金の加入は必須。


医療法人解散時の残余財産は国等に帰属する


出資持分から財産の概念がなくなったために、医療法人を解散した際の残余財産は、国や地方自治体等に帰属する。


小規模企業共済の加入不可


医療法人では加入が出来ないために、医療法人成時に解約をする必要がある。


交際費の損金不算入


法人の交際費算入条件が適用される。


法人での投資・業務に制限


余剰資金の投資運用や関連業務などの展開に対して制限あり。


決算情報等の公開


都道府県への決算書類・事業報告書等の書類が閲覧により公開される。


各種事務が煩雑


定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成する必要あり。

決算終了後に決算の届出及び、総資産の変更登記、変更登記にかかる官庁への届出等が発生する。

 

医療法人化の目的を明確にする

ざっとメリットとデメリットを列記しました。


クリニックを運営していて後継者が決まっている場合や、附帯事業・分院を展開する場合には医療法人成によってスムーズな継承や事業展開が図れます。

 

このようなニーズであれば法人成は全く問題はないのですが、大半の医療法人成は税軽減が目的になっています。

 

これは、医療法人成を勧めるのが、税金計算をしている顧問会計事務であるケースが多いことにも起因しています。

 

関与先である開業医の所得が伸びれば、院長から

「税金が高い」
「税金を安くしてほしい」

ということを顧問会計事務所に言うので、

「ならば法人化しますか?」

という提案を行う流れもあれば、会計事務所にとって医療法人成は大きなビジネスになるので積極的に提案をしている事務所もあります。

 

医療法人成に伴う各種手続きや申請業務で費用が取れるのと、法人化することで月額顧問料と決算料の値上げが出来、さらには個人の確定申告料も貰えるので、会計事務所にとっては高収益なビジネスとなっています。

 

確かに法人化することで、法人・個人の税負担はかなり減ります。

 

ですが、医療法人の最大のデメリットと言ってよい

「理事長個人の可処分所得減少」

が見過ごされている、もしくは適切に説明されていないケースが散見されます。詳しく検証してみましょう。

 

医療法人化を検証する


<整形外科・個人開業>
医業収益:11,689万円
医業費用:7,405万円
給与費:3,894万円
給与比率:33.3%(対医業収益)
損益差額:4,284万円
損益差額率:36.6%(対医業収益)

<整形外科・医療法人>
医業収益:17,342万円
医業費用:17,493万円
給与費:10,020万円
給与比率:53.5%(対医業収益)
損益差額:1,237万円
損益差額率:6.6%(対医業収益)

※平成29年度実施 第21回医療経済実態調査より抜粋

注)整形外科の医業収益と医業費用・損益差額が合っていないのは介護収益を掲載していないためです。

 

まずは個人開業の損益差額4,282万円を所得金額と仮定として考察ます。

 

この所得額ですとザックリ約1,800万円の所得税+住民税負担が発生して、税引後約2,400万円のお金が残ります。

 

そしてこの整形外科クリニックが医療法人化したとします。

 

個人の給与費率33.3%と法人の給与費率53.5%の差額が理事長・理事報酬だと言えますので53.5%ー33.3%=20.2%が理事報酬比率と言えるでしょう。

 

個人開業の収益11,689万円に上記理事報酬比率20.2%を掛けた2,361万円が理事報酬と言えます。

 

この額を理事長報酬と仮定して手取り額を計算すると、約800万円が所得税と住民税ですので、1,561万円が手元に残るお金と言えます。

※細かくは社会保険料や社会保険料控除を考慮すると金額は変動しますので、あくまでもイメージとして捉えて下さい。

 

個人の場合には約2,400万円、法人化すると約1,560万円。その差額は840万円あります。この差額分だげ手取り額が減っています。

 

この減少分を補おうとして役員報酬を引き上げるとさらに所得税+住民税負担が増えますので、結局は法人化した意味が無くなります。

 

これだけ可処分所得が減ると、お子様の年齢によっては教育資金が足りないという事態が発生します。

 

節税対策として法人化したら可処分所得が減って、教育資金が不足するので教育ローンを使うという事態が起きています。

 

これは目先の節税を意識した開業医の意思決定ミスと、個人のライフプランニングをしっかりと検証・説明せずに法人化を勧めた会計事務所のミスと言えるのではないでしょうか??


まとめ

「医療法人成をした方が良いのかどうか?」

を考える際には、必ず税効果だけでなくご自身のライフプランニングをしっかりと行った上で、総合的にご判断されることをオススメいたします。

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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