COLUMN

ハーフタックスプランの基本【完全版】

※2021年12月25日加筆修正をしました。

生命保険に関する法人税基本通達の改訂に伴い、養老保険を使ったハーフタックスプランについて関心が高まっています。養老保険のハーフタックスプランは古くから課税の繰延効果が高いとして非常に多く活用されてきましたが、その分、否認事例も多く存在しています。

 

今回はこの養老保険のハーフタックスプランを解説したいと思います。

 

 

まずは、基本となります法人税基本通達9-3-4の確認から行います。

 

法人税基本通達9-3-4(養老保険に係る保険料)

法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする養老保険(省略)に加入してその保険料(省略)を支払った場合には、その支払った保険料の額(省略)については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。

(昭55年直法2-15「十三」により追加、昭59年直法2-3「五」、平15年課法2-7「二十四」により改正)

 

(1)死亡保険金(省略)及び生存保険金(省略)の受取人が当該法人である場合 

その支払った保険料の額は、保険事故の発生又は保険契約の解除若しくは失効により当該保険契約が終了する時までは資産に計上するものとする。

 

(2)死亡保険金及び生存保険金の受取人が被保険者又はその遺族である場合 

その支払った保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

 

(3)死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が当該法人である場合

その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は(1)により資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には、当該残額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

 

 

昭和55年に制定がされた最もポピュラーな通達です。この9-3-4(3)を適用させて支払保険料の1/2を損金処理にする、いわゆる「ハーフタックスプラン」と呼ばれている生命保険活用法です。

 

の通達で半分損金が認められたのは、同時に制定された法基通9-3-5で全従業員を対象にした定期保険について、保険金受取人を被保険者の親族とする事で損金算入を認める以上、養老保険も死亡保険金受取人を被保険者の遺族にするのであれば、一定の割合で損金算入を認めないとバランスが取れないとして、1/2損金が認められたという経緯があったと聞いております。

 

今回、法基通9-3-5が改訂となり法基通9-3-5の2が新設されたことを踏まえまして、今後は9-3-4(3)も改訂になり、損金算入割合が変わる可能性がゼロではないという事をまずはご認識下さい・・・・

 

それを踏まえて、養老保険を使ったハーフタックスプランについて検討を進めて行きます。

 

保険対象者は?

そもそも、この契約形態が

契約者=法人

被保険者=従業員

死亡保険金受取人=被保険者親族

満期保険金受取人=法人

 

になりますので、基本は「従業員に対する福利厚生」というスタンスが入口になります。これをはき違えて課税の繰延に軸足を置いて検討をし始めると論点がズレてきますし、否認リスクが高まります。

 

役員については、あくまでも法人との委任契約で就任をしているために福利厚生という概念はありません。ですから従業員のみを対象とすることが基本ですが、役員をハーフタックスプランに含めることは可能です。

 

「従業員に対して保障」を提供しつつ、資金を積立する制度であることが大前提ですので、基本的には、対象者を絞る事なく社員全員を対象にするのが大前提となります。

 

通達上は「特定の使用人のみを被保険者としている場合には給与とする」とあります。

 

では、「特定の使用人」という定義はどう考えればよいのでしょうか?実態として、離職率が高い企業もあるのが事実ですから、保険の対象者を「客観的なルール」に基づいて絞り込みをすることは認められていますが、絞り込むための「客観的なルール」が必要です。

 

例えば、入社〇年以上の社員」という「客観的なルール」を儲けて対象者を絞り込んだ場合に対象者が過半数以上になるイメージです。

 

 

保険期間は?

福利厚生を目的にする訳ですから、基本的には就業規則上で定めている退職年齢を満了年齢に設定するのが原則です。なお養老保険を活用したハーフタックスプランを導入するのであれば、同時に退職金規定の整備も必要になります。

 

ちなみに多くの企業において60歳定年・65歳まで1年更新の継続雇用という設定をしていますが、ハーフタックスプランの満期を65歳に設定をすると60歳で定年を迎えて継続雇用をしない場合には満期前に解約をすることになります。そのため定年が60歳であれば満期を定年年齢の60歳に合わせておくのが基本です。

 

なお定年延長などにより、満期時期と退職金支給時期がズレる場合には、満期保険金の据置や年金支払等を活用することである程度は対応が可能です。ただ据置や年金支払に関する取扱は保険会社によって異なりますので、加入される際には先に確認しておくことをオススメします。

 

なお定年年齢より短い保険期間を設定することは、福利厚生の観点から見れば少し違う様に思いますが、現実的には保険期間10年という設定をよく見かけます。実際に国税不服審判所の裁決事例の中にもこんな文章があります。

 

「貯蓄性の高い保険契約の保険料が、事業の遂行上必要なものと認められるためには、当該保険契約締結の目的、被保険者・事業主が負担する金額、支払われる保険の金額、保険金の使用目的等を総合的に考慮し、客観的に事業の遂行上必要であると認められることを要するというべきである」

※平成17年4月26日広島国税不服審判所平160027

 

という一文があります。これから考えますと、保険期間を短くして保険料を高めることは、否認されるリスクが高いと言わざるを得ないでしょう。そもそも定年年齢よりも短い保険期間に合理性があると思えませんので否認されるリスクがあると言わざるを得ません。

 

 

保険金額の設定は?

前述の通り、あくまでも福利厚生を目的にする事が大前提ですから、保険金額に格差をつける事は適切ではありません。特に社員と役員で格差をつける場合において、役員の中でも代表者や代表者親族だけ保険金額を大きくするのも、本制度の主旨から考えますと違和感があると言わざるを得ません。

 

実際に裁決事例の中には、社員と代表者の保険金額格差を10倍に設定している事例について否認されているものもあります。一部保険会社では「5倍くらいまでならOK」と公然と言っているところもあるようですが、これは何の根拠もありません。基本的には格差をつけるべきではありません。さらには、後で保険商品の解説でも触れますが、保険商品によっては、保険金額が増えていく「特殊養老保険」についても、死亡時期によって保険金額の格差が付く事になりますので適切ではないと思います。

 

保険商品は?

基本的には養老保険でないと法基通9-3-4(3)は適用されません。ですが、一般的な養老保険である円建て定額の養老保険は、販売を停止している保険会社も多いですし、仮に販売をしていても返戻率が低くてメリットがないケースも多くあります。そのために外貨建てや変額有期・特殊養老などを検討するケースも多くあります。

このうち、特殊養老(リタイアメントインカム、以下RI)は前述の通り、時期によって保険金額にばらつきが発生しますので、適切ではないと考えます。次に外貨建てですが、保険金額がドルで支払われる事は税務的には問題はありませんが、労働基準法的には問題が発生します。

 

<労働基準法24条>

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

ここの中に「賃金は通貨で」支払う事とされています。養老保険の死亡保険金は死亡退職金という「賃金」の支払に該当しますから、これをドルで支払う事については問題があると言わざるを得ません。ここで言う通貨は、「市中で流通する貨幣」ですからドルは確かに銀行や交換所で円に変更する事は可能ですが、「市中で流通する貨幣」という事は少し無理があると思います。

 

ただ、24条の但し書きの中に「労働者の過半数を代表するものとの書面による協議」とありますが、これについては、労働者に支払う場合にはこの書面は有効であると考えられていますが、死亡保険金は労働者の親族へ支払うことになりますから注意が必要です。

 

実際には外貨建てを活用する場合には、キチンと労使合意を行って書面で残し、死亡保険金を遺族に支払う場合にもキチンと説明をして合意を得た上で円または外貨で受け取ることになりますので、問題になるケースは少ないのかも知れませんが、逆に言えばこのあたりの説明や手続きをしっかりと行わないと問題になる可能性があることは知っておくべきです。

 

次に変額有期ですが、一応、課税当局は変額有期を定額養老と同じように法基通9-3-4(3)を適用する事は認めているとされています。ただ気になるのは、保険金が運用実績によって変動する点です。

 

これは、あくまでも運用実績によっての変動であり、有配当養老保険の「配当」も同様に運用実績によって変動するために変額有期の保険金額変動はまだ容認されると言われています。前述のRIの場合との違いは、RIは契約時点で保険金額が増加する事が確定しており、増加の仕方が保険期間の設定によって変動しますから、適切ではないと考えられます。

 

ただし加入時期や保険期間・運用実績によっては従業員間の保険金額の格差が大きくなることも想定されますので、福利厚生制度として加入時期や運用実績で格差が生じることは好ましくないでしょう。保険会社によっては運用実績によって増えた部分を途中で引き出せる保険会社と引き出せない保険会社があります。引き出せない保険会社の場合には、従業員間の格差が大きくなる可能性がありますので、それによってハーフタックスプランの要件を満たさなくなるリスクがありますので、事前にキチンとご確認下さい。

 

保険会社は?

保険商品や返戻率で活用する保険会社を選びがちですが、真っ先に注意すべきなのか、「破綻の懸念がない(小さい)保険会社かどうか?」です。あまり書くと問題があるのでさらっとだけ書きますが、貯蓄性の高い商品なだけに保険会社が万が一破綻をした場合には、大幅に保険金が削減される可能性が非常に高いです。そのために経営的に問題がある保険会社の商品は選ぶべきではありません・・・・

 

あとは保険会社の約款上の規定も要注意です。年払で保険料を払っている場合、被保険者が死亡をして保険金を支払う際に、当該契約に対する未経過保険料の取扱についてです。多くの保険会社では、約款上の規定で「死亡保険金を支払う場合、未経過保険料は保険金受取人に支払う」とされています。

 

このような約款の規定ですと、保険金と未経過保険料は意味合いが異なるお金が保険金受取人に支払われることになります。当然ながら遺族が受け取った「保険金」と「未経過保険料」とでは税務上の取扱も異なることになります。

 

契約応当日から死亡日までの関係によっては支払われる未経過保険料が大幅に変動することになります。そのためにご契約予定の保険会社の約款上、どのような規定になっているのか?は事前に確認をしておく必要があるでしょう。

 

もう一度、確認をしておきますと、死亡保険金受取人をあくまでも被保険者の親族にするという「福利厚生」がこのプランの基本ですから、ここをはき違えると、いろいろと歪みが出てきますのでくれぐれもご注意下さい。

 

決して、

・損金性商品による課税繰延効果が今回の改訂で縮減する

・課税繰延効果が引き続き期待できる養老保険を活用しよう

・そのために福利厚生制度を充実される

 

というロジックでの検討は非常に危険ですからご留意下さい。なぜなら、養老保険のハーフタックスプランは最もオーソドックスな手法で多く活用されてきた分、多くの否認事例が存在しているからです。参考になると思いますので、国税不服審判所の養老保険のハーフタックスプランに関する裁決事例をピックアップします。

 

養老保険に関するおもな裁決事例

<裁決事例その1>(平17.4.26広裁(所・諸)平16-27)

従業員を被保険者とした養老保険及びガン保険については、将来の退職金のためである旨、従業員に周知し、契約しており、所得税法第37条第1項に規定する業務の遂行上生じた費用であることは明らかであるから、必要経費に算入されるべきであると主張する。

しかしながら、貯蓄性の高い保険契約の保険料が、事業の遂行上必要なものと認められるためには、当該保険契約締結の目的、被保険者、事業主が負担する金額、支払われる保険の金額、保険金の使用目的等を総合的に考慮し、客観的に事業の遂行上必要であると認められることを要するというべきである。これを本件についてみると、

1)退職金受給資格のない者についても本件保険契約に加入させていること

2)退職金は、各自の勤続年数及び基本給によって異なるべきものであるところ、本件保険契約は、勤続年数、基本給及び年齢にかかわらず一律になっていること

3)本件保険契約の金額は、各従業員の基本給及び勤続年数から予測される退職金の額をはるかに超える金額であること

4)請求人に給付される保険金あるいは解約返戻金から従業員への退職金を支払った残額は、請求人に帰属し、これを従業員のために使用するという取決めも存しないこと

5)福利厚生目的で加入した契約であれば当然に従業員に周知されるべき本件保険契約の内容がほとんど周知されていないこと

総合勘案すれば、本件保険契約の保険料が福利厚生費として必要経費に該当すると認めることはできない。

 

<裁決事例その2>(平18.10.17 東裁(諸)平18-67)

請求人を契約者及び生存保険金の受取人とし、請求人の役員及び使用人を被保険者、被保険者の遺族を死亡保険金の受取人とする養老保険契約について、役員及び使用人の福利厚生の一環として加入したものであり、特定の者に恩恵を与えるような恣意的なものとはいえないから、請求人の役員又は使用人の全部が同族関係者であるとしても、当該養老保険契約の保険料のうち死亡保険金に係る部分は福利厚生費であるとして、本件納税告知処分が違法である旨主張する。

ところで、所得税基本通達36-31(注)2の(2)は、役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人が養老保険に加入した場合について、たとえその役員又は使用人の全部を対象として保険に加入する場合であっても、その同族関係者である役員及び使用人については、その支払った保険料の2分の1に相当する金額(死亡保険金部分)は当該役員及び使用人に対する給与等とする旨定めているが、その趣旨は、当該法人においては、当該法人の同族関係者によって経営の支配権が確立され当該法人の同族関係者自らが養老保険の加入の要否及び保険金額等を決定する権限、すなわち養老保険契約の加入に伴う経済的利益の供与を決定する権限を有していることから、当該法人が支払う養老保険の保険料にはもはや従業員の受動的利益であるはずの福利厚生費の性格が欠如し、福利厚生を目的とした使用者側の業務上の要請による支出とは認められず、同族関係者が、専ら当該経済的利益を自ら受益するために養老保険に加入していると認められることから、当該法人が支払った保険料は同族関係者に対する給与として課税するというものであり、このような取扱いは当審判所においても相当なものとして是認できる。

そうすると、請求人が加入した上記養老保険の保険料のうち死亡保険金に係る部分は請求人の役員及び使用人に対する給与と認められるから、本件納税告知処分は適法である。

 

<裁決事例その3>(平27. 6.19 名裁(諸)平26-44)

同人が契約者として締結した、理事長等を被保険者とする養老保険契約(本件各保険契約)の死亡保険金について、従業員を被保険者とする保険契約の死亡保険金に比して多額であるが、格差が存する理由として、理事長等が病院の経営に生涯責任を持ち、請求人の借入金の保証人になっているため、所得税基本通達36-31《使用者契約の養老保険に係る経済的利益》(本件通達)の(注)2の(1)に定める「保険加入の対象とする役員又は使用人について、加入資格の有無、保険金額等に格差が設けられている場合」に該当し、本件通達の(3)ただし書に定める「役員・・・のみを被保険者としている場合」に該当しないことこととなるため、本件各保険契約に基づき請求人が支払う保険料(本件各保険料)の2分の1に相当する金額は理事長等に対する給与等には該当しない旨主張する。

しかしながら、理事長等は従業員とは質的に異なる重い責任を負っているということができるものの、本件通達の趣旨や「職種、年齢、勤続年数等」という列挙事由に照らせば、他に特別の事情のない限り、福利厚生を目的として、死亡保険金に大きな格差を設けることの合理的な根拠にはならないというべきである。

さらに、本件各契約は、請求人の福利厚生規定に定めたりすることなく理事長等の判断だけで締結されていることからすれば、理事長等は自らが本件各保険契約による経済的利益を受ける目的で締結したものと評価せざるを得ず、本件各保険料の死亡保険金に係る部分には、もはや一種の福利厚生費としての性格が欠如していると言え、本件通達の(注)2の(1)に定める「職種、年齢、勤続年数等に応ずる合理的な基準により、普遍的に設けられた格差であると認められるとき」には該当しないというべきであり、本件通達の(3)ただし書に定める「役員・・・のみを被保険者としている場合」に該当すると評価できるから、本件各保険料の2分の1に相当する金額は理事長等に対する給与等に該当する。

 

<裁決事例その4>(平23. 3.23 広裁(所)平22-22)

請求人は、

1)従業員を被保険者とする本件各養老保険契約及び本件各がん保険契約(本件各保険契約)は、それぞれ法人税基本通達9-3-4《養老保険に係る保険料》及びがん保険契約に係る法令解釈通達(平成13年8月10日付課審4-100)が準用され、本件各養老保険契約に係る保険料の額のうち2分の1相当額及び本件各がん保険契約に係る保険料の全額を必要経費に算入することができる旨

2)本件各保険契約は、従業員の退職金又は死亡弔慰金の補充、拡充という福利厚生の目的で締結されたものであり、その保険料は、事業の遂行上必要な費用であるから必要経費に算入することができる旨主張する。

しかしながら、上記1)については、個人の支出に関する取扱いは、家事関連費という概念がないなどの法人の支出に関する取扱いとは異なるのであり、法人税に係る通達及び取扱いは、所得税において準用されるものではなく、必要経費と認められるためには、それが事業との直接の関連を持ち、事業の遂行上客観的一般的に通常必要な費用であることが必要である。

また、上記2)については、本件各保険契約に係る保険金等が従業員の退職後の原資とされなかったなどの事実関係の下では、請求人が、本件各養老保険契約に基づいて支払われた保険料の額の2分の1に相当する額及び本件各がん保険契約に基づいて支払われた保険料の全額を必要経費に算入して事業所得の金額を計算することを図るとともに、保険料の名目で資金を積み立てることを企図して本件各保険契約を締結したものと認められるのであり、本件各保険契約に係る保険料の支払が事業と直接の関連を持ち、事業の遂行上客観的一般的に通常必要であるということはできない。

以上からすれば、本件各保険契約に係る保険料の額は事業所得の金額の計算上必要経費に算入できないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

 

<裁決事例5>(平 8. 7. 4広裁(法)平 8-1 8-2)

原処分庁は、契約者を請求人、被保険者を従業員等、死亡保険金の受取人を請求人の従業員等の遺族、満期保険金の受取人を請求人とする生命保険契約に係る支払保険料は、当該保険契約の締結に当たり、

(1)従業員等の事前の同意がないこと、

(2)中途解約を意図したものであること、

(3)福利厚生目的はなく、

課税の繰延べ等を目的としたものであることから、その全額を資産に計上すべきである旨主張する。

しかしながら、養老保険の保険料につい定めた法基通9-3-4の取扱いは、特段の事情がない限り相当であると認められるところ、本件においては、

(1)従業員等の事前の同意がなかったと断定できないこと、

(2)中途解約を意図していたと断定できないこと、

(3)投資のみを目的としたものであると断定できないこと

から、請求人が課税の繰延べをも意図して加入したことは窺えるものの、従業員等に対する福利厚生に資するために加入したものではないと断定するには無理があり、原処分庁の主張には合理的理由が認められず、契約の効力発生に何らの問題がない以上、危険保険料部分として支払保険料の2分の1相当額を損金の額に算入することは相当である。

 

 

長々と裁決事例を引用したのは、文章を読んで頂くと、否決された事例のすべてが、福利厚生を主目的にしたのではなく「違う目的」を主目的にしたため、制度として歪んでしまった結果、否認されていることがご理解いただけると思います

 

従業員の福利厚生のためと言いながら、契約者である法人がその契約についての解約権などの権利を持っており、中途解約時には多額の返戻金が発生することを考えますと、そもそもの趣旨を逸脱すると否認されるリスクは高いと言わざるを得ません・・・・

 

ですが、ハーフタックスプランの課税繰延効果は大変魅力的です。なぜなら、簿外含み資産は経営上、必要なタイミングで益出しが出来る効果があります。法基通9-3-7(2)も改訂になりますが、養老保険は従前からルール化されており、払済処理をした際に、洗替処理をして益出ししても良いし益出ししなくても良いとされています。

※変額有期を払済にして定額有期になる場合には洗替処理が必要となります。

 

そのために、不測の事態により益金が必要となった場合には、払済処理をして益金を計上すれば、従業員福利として保障を残しつつ益金が計上でき、一定期間内であれば復旧させる事で今度は反対仕訳で損金計上が可能になります。ただし、前述の通り従業員福利のための保険を法人の益金対策のために払済処理をすることが良いのか?という「そもそも論」はあります。

 

例えば、中退共や特退共、確定拠出年金などは拠出をした時点で従業員に資産が帰属をしているために全額損金処理が認められています。ですが、生命保険の場合には、契約者である法人がその契約を継続するも意思決定は契約者である法人に委ねられており、その意味からすれば「本当の福利厚生」とは言えないかも知れません。

 

ただ経営者にとっては、資金繰りに困った際に使える資金がある安心感は非常に大きなものがあります。そのために有事の際はハーフタックスプランにて積み立てられた資金を一時的に使って急場をしのぎ、その後、業績が回復した際にはまた戻すことが出来るという自在性もハーフタックスプランを活用するメリットの一つと言えます。ですので中退共や特退共といった制度とハーフタックスプランを上手く併用することで、より良い退職金積立制度を構築することも可能になります。

 

 

最後に

最後に、ハーフタックスプランにおいてもっとも注意しなければならない点を説明しておきます。それは社内規定において、受取人が社員の親族となっている契約で死亡が発生し保険金が支払われる場合、この支払われる保険金が「死亡退職金」に該当するという文言を入れておく必要があります。

 

なぜなら、この保険金が「死亡退職金」に該当せずに「保険金」として親族に支払われた場合、親族は法律的に受け取った保険金とは別に「退職金」を請求する権利が残ってしまうからです。

 

道着的に会社で負担してもらった保険金を受け取った上に、退職金まで請求する親族がどれだけいるか?とも思いますが、法律上は退職金制度があれば雇用主は別途支払う必要がありますし、請求を受ければ支払う義務が生じます。さらにやっかいしいのは、某国税局管内において、死亡保険金は「退職金」として支給し、満期保険金は法人が受け取るのであれば経済的利益は法人が両方とも受けているとして保険料の1/2損金を否認した事例があるそうです・・・・

 

ただこの調査において納税者側が、規定上の「保険金を死亡退職金に充当する」という文言を削除する事で、事なきを得たそうですが、この一件から見てもハーフタックスプランが相当厄介であることがお分かり頂けたかと思います。

 

世の中で安易にハーフタックスプランを推奨している保険営業パーソンを見かけますので、そのアンチテーゼとして書かせて頂きました。決して私はハーフタックスプランを否定している訳ではありません。ご契約される場合には、保険営業パーソンにまかせっきりにせず徹底的に研究をした上で万全の状態でご契約して頂きたいと思います。

 

コチラの記事も合わせてどうぞ

Case16:医療法人がハーフタックスプラン導入を見送った事例

 

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

養老保険を活用したハーフタックスプランについてのお問い合わせは下記フォームよりお問い合わせください。

お問い合わせはこちら

この記事に付いているタグ