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法人税基本通達における2つの特例

令和元年7月8日より適用されている法人税基本通達の改定内容の中には「2つの特例」があります。

 

法人税基本通達9-3-5の特例

1つ目である法人税基本通達9-3-5の特例は、解約返戻金がないかごくわずかな定期保険又は第三分野保険の短期払いで、年間保険料が30万円以下の場合には支払保険料の全額の損金処理を認めるとの内容です。

※(注)2が該当しますが、通達本文をそのまま引用します。

 

法人税基本通達9-3-5(定期保険及び第三分野保険に係る保険料)

法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする定期保険(一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険をいい、特約が付されているものを含む。以下9-3-7の2までにおいて同じ。)又は第三分野保険(保険業法第3条第4項第2号《免許》に掲げる保険(これに類するものを含む。)をいい、特約が付されているものを含む。以下9-3-7の2までにおいて同じ。)に加入してその保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額(特約に係る保険料の額を除く。以下9-3-5の2までにおいて同じ。)については、9-3-5の2《定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い》の適用を受けるものを除き、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。(昭55年直法2-15「十三」により追加、昭59年直法2-3「五」、令元年課法2-13により改正)

(1) 保険金又は給付金の受取人が当該法人である場合 その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。

(2) 保険金又は給付金の受取人が被保険者又はその遺族である場合 その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には、当該保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

(注)
1 保険期間が終身である第三分野保険については、保険期間の開始の日から被保険者の年齢が116歳に達する日までを計算上の保険期間とする。

2 (1)及び(2)前段の取扱いについては、法人が、保険期間を通じて解約返戻金相当額のない定期保険又は第三分野保険(ごく少額の払戻金のある契約を含み、保険料の払込期間が保険期間より短いものに限る。以下9-3-5において「解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険」という。)に加入した場合において、当該事業年度に支払った保険料の額(一の被保険者につき2以上の解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険に加入している場合にはそれぞれについて支払った保険料の額の合計額)が30万円以下であるものについて、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときには、これを認める。

 

法人税基本通達9-3-5の2の特例

そして2つ目の9-3-5の2の特例は、最高解約返戻率が70%以下で年換算保険料が30万円以下の定期保険又は第三分野保険について、支払った保険料の全額損金処理を認めるという内容です。

 

法人税基本通達9-3-5の2(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)

法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険(以下9-3-5の2において「定期保険等」という。)で最高解約返戻率が50%を超えるものに加入して、その保険料を支払った場合には、当期分支払保険料の額については、次表に定める区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。ただし、これらの保険のうち、最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(一の被保険者につき2以上の定期保険等に加入している場合にはそれぞれの年換算保険料相当額の合計額)が30万円以下の保険に係る保険料を支払った場合については、9-3-5の例によるものとする。(令元年課法2-13により追加)

 

2つの特例のポイント

この2つの特例のポイントは

  • 他社契約を通算するので、成約した場合には絶対に他の募集人契約が混じらないように徹底すること。
  • 仮に他募集人の契約を合わせて30万円を超えた場合には、すべてがアウトになること。
  • 令和1年7月8日以前の契約は通算しないこと。
  • 両方の特例は通算しないこと。

の4点です。

 

特例の活用例

この通達内容を踏まえますと、養老保険のハーフタックスプランたよらない福利厚生制度の構築が可能になります。

 

まず終身医療保険の短期払いは60歳か65歳払込にして、一定条件をクリアーした社員へ全員付保する事で、個人での医療保険が不要になり、実質的な昇給となります。法人で最低限必要な保障を付与する事で、可処分所得での保険料負担が不要ですから社保・税負担がない”昇給”となります。

 

次に最高解約返戻率70%ですが、これも外貨建て定期や変額定期・有配当定期を活用すれば70%超の返戻率が期待出来るので、従業員退職金の一部に充当する事が可能になります。

 

ハーフタックスプランの基本【完全版】でも解説をしましたが、ハーフタックスプランは福利厚生の主旨を逸脱して否認されている裁決事例も多くあるだけに注意が必要ですが、これらのプランは、他募集人を排除すれば、リスクはかなり低減出来ます。

 

ただし最高解約70%の法基通9-3-5の2の特例は、そもそも単純返戻率が100%を超える終身保険で対応した方が、メリットは大きいので、そのあたりは提案する法人の実効税率や実態を踏まえて上手く使い分けていただく必要があります。

 

この様に二つの特例を上手く活用すれば、「新たな福利厚生制度」として検討の価値があるのではないでしょうか?

 

「契約者ベース」なのか?「被保険者ベース」なのか?

なおこの二つの特例について、経営者や同業者から多くの質問を頂き、私自身も気になっていた部分があります。

 

それは、この特例が「契約者ベース」なのか?「被保険者ベース」なのか?という点です。

 

契約者ベースであれば、幾つかの法人で代表や役員をしている人がそれぞれの法人で「二つの特例」を使う事が出来るのか?という意味であり、被保険者ベースであれば、あくまでも被保険者一人が使える特例は一法人のみという意味です。

 

これについては、いろいろな専門家に確認を取った結果、「契約者ベース」との理解で大丈夫なようです。

 

例えば医療法人+MS法人の経営形態において、理事長ならびに奥様が両方で役員に就任しているケースであれば、医療法人でそれぞれ30万円ずつ、MS法人でそれぞれ30万円ずつの損金算入が可能という事になります。

 

ですから、医療法人で30万円×4契約、MS法人で30万円×4契約の合計年間保険料240万円までは損金参入が可能です。

 

ただ、改めて説明するまでもないですが、課税繰延の税効果を目指すのではなく、あくまでも三分野保障の確保と、死亡保障コストの実質負担軽減が主目的になります。

 

特に最近では、各社ともに要介護1と認定されれば保険金が支払われるような商品も発売されており、介護保障が充実してきておりますので、ご年配の経営者の方々にとっては検討して頂く価値は十分にありそうです・・・

 

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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