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【完全版】契約者名義変更プランとは?

※2021年3月14日に修正・追記しました

※2021年3月21日に最新情報をアップしました。詳細は下記リンク先をご確認下さい。

 

令和元年の法人税基本通達の改定をうけて生命保険を使った課税繰延がほぼ出来なくなり、税効果のある生命保険活用術は、

・養老保険ハーフタックスプラン

のみになっています。

 

養老保険ハーフタックスプランについては、こちらで解説済ですので、詳細はコチラの記事をご確認下さい。

 

そして逆ハーフタックスプランについては、こちらの本が詳しいので、詳細に知りたい方はコチラをどうぞ!

今回は、残りの契約者名義変更プランについて出来るだけ?分かりやすく整理をします。

 

※令和3年3月12日時点、本プランの税務上取扱が変更になる可能性があるとの情報がありますので、くれぐれもご注意下さいませ。

 

 

そもそも「契約者名義変更プラン」とは

契約者の変更は

法人→個人

法人→法人

個人→個人

個人→法人

の4つのパターンが考えられますが、今回は法人にて契約した生命保険を個人へ契約者変更をするプランを取り上げます。

 

なお上記の中で個人→個人の契約者変更は、名義変更時点での課税関係は発生せず、保険金の支払や満期、解約等により支払がされた際に、相続または贈与とみなす規定が相続税法にあります。

 

ですので、低解約返戻率時に個人間の名義変更をしても、その時点での解約返戻金相当額で贈与があったとはみなされない点は注意が必要です。

 

法人から個人への契約者名義変更時の処理

法人から個人へ契約者名義を変更する際の処理としては、実務的には当然ながら保険契約者を変更する書類に記入・押印が発生します。ただそれ以外にも必要な処理が幾つか存在します。

 

・契約者を変更するにあたり株主総会決議が必要となります。

→法人にて契約していた保険契約を個人へ契約者変更をすることは、利益相反取引となりますので、株主総会での承認が必要です。

※取締役会設置会社であれば取締役会の開催となります。

 

・契約者変更に伴う経理処理が発生します。

→当該契約について前払保険料などの資産計上部分が計上されている場合には、その時点で適切に評価された保険契約の評価額との洗替処理が必要となります。

 

【資産計上額>評価額の場合】

<借方>

普通預金(評価額)

雑損失(前払保険料-評価額)

 

<貸方>

前払保険料

 

【資産計上額<評価額の場合】

<借方>

普通預金(評価額)

 

<貸方>

前払保険料

雑収入(評価額-前払保険料)

 

※なお契約者名義変更時点での評価額については後述しますので、ここでは単に評価額とご認識下さい。

 

・契約者名義変更時点における評価額相当額を新契約者である個人から法人へ資金移動を行います。

→契約者変更時点の評価額で個人が契約を買取る形になりますので資金移動が必要です。なお退職にともなう現物支給であれば資金の移動は伴いませんが、その経理処理は必要です。

 

【退職金現物支給時の処理】

前述の経理処理のうち普通預金(評価額)の部分が役員退職金に変わるだけです。

 

契約者名義変更における保険契約の評価について

 

法人から個人へ契約者変更を行う際、その契約の評価をどのように行うのが良いのでしょうか?一番オーソドックスな評価方法は所得税基本通達36ー37にのっとって名義変更時点での解約返戻金相当額で行う事です。

 

所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)

使用者が役員又は使用人に対して支給する生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約に関する権利については、その支給時において当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額)により評価する。

 

 

これにより、法人から個人へ契約者変更をする日における解約返戻金を評価額とするのが一般的です。

 

ただ解約返戻金で評価する以外には、「資産計上額での評価」や「前後1年の解約返戻金の合計額の1/2」という評価方法を主張される税理士先生もおられます。

※これについては諸先生方の見解なのでここでは議論は行いません・・・

 

本プランのリスク(法人側)

<税務上>

既に見て頂いている様に、法人から個人へ契約者変更をする際、解約返戻金の評価方法とその時点における資産計上額によっては、法人側に特別損失が計上されます。

 

「なぜ特別損失を計上してまで法人から個人へ契約者変更をしたのか?」

 

契約者変更をすることで、法人は損失を計上しますが、次年度以降に個人で保険料を支払えば一定の額まで解約返戻金が増えるタイプの保険商品(低解約逓増など)であれば結果的に法人で損失を計上しても、法人と個人を一体として考えれば実質的には誰も損をしていません・・・

 

これにより法人税法132条の適用される可能性がリスクになります。

 

法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)

税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

一 内国法人である同族会社

(以下省略)

 

 

契約者名義を変更したことに対する合理的な理由がなければ、特別損失を計上して税負担を軽減させる事が目的の行為であると認定されます。

 

この認定がされると、法人から個人への利益供与として「役員賞与」または「贈与」判定されるリスクがあります。

 

さらには前述の名義変更時の評価方法について、現時点では所基通36-37を適用して解約返戻金相当額で行っていますが、これが令和元年の法人税基本通達の改定の様にルール変更になれば特別損失が計上出来なくなる可能性もあります。

 

次に、以前に横行していた医療保険やがん保険などの第三分野保険を個人へ名義変更する場合には注意が必要です。

 

このスキームは、

法人で契約し支払保険料を全損処理

払込期間終了直前に個人へ名義変更

その時点での解約返戻金はゼロなので無償譲渡

払込期間満了後は、個人で終身保障が得られる

という全体像です。

 

このスキームにおいて、名義変更から医療保険・がん保険の給付金を受取るまでの期間が短い場合、法人で支払った保険料の損金否認(月払は役員給与・年払は役員賞与認定)されるリスクがありますので注意が必要です。

 

<法人運営上>

法人契約の生命保険を役員個人へ契約者変更を行いますので、当然ながら利益相反取引となります。

 

このため保険契約を受け取る役員以外に株主が存在していると、法人に損失を与えた取引に対して「株主代表訴訟」を提起されるリスクがありますので、くれぐれもご注意下さい。

 

 

なお医療法人における契約者プランについては、医療法54条にて禁止されている「配当行為」に類似しているとされていますので、医療法違反となります。さらにその他のリスクについては、「医療法人における契約者変更プランのリスク」にて解説をしましたので、そちらをご参照下さい。

 

本プランのリスク(個人側)

 

低解約逓増定期保険など、解約返戻金のあるタイプについて、個人で受取る場合の一時所得課税の計算方法は平成23年の税制改正ならびに平成24年の逆ハーフタックス最高裁判決で確定をしていますから、キチンと申告をしていればリスクはありません。

※法人で払った保険料分は一時所得の特別控除に該当せず、あくまでも個人で負担した金額のみを控除対象とする考え方です。

 

次に第三分野保険の個人へ名義変更をするプランですが、こちらは個人が受取る給付金については所得税法上、非課税が認められていますので、リスクはないと思われます。

 

所得税法9条(非課税所得)

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

 

十七 保険業第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの

 

所得税施行令30条(非課税とされる保険金、損害賠償金等)

法第九条第一項第十七号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(省略)とする。

一 損害保険契約(省略)に基づく保険金、生命保険契約(省略)又は旧簡易生命保険契約(省略)に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(省略)

(以下省略)

 

ただ、前述の法人におけるリスクで書きました様に、支払保険料を保険料ではなく役員給与(賞与)と認定されますと、所得税課税が発生するリスクがあります。

 

リスク回避&軽減策

契約時に正しい説明を受けてリスクを認識していれば問題はありませんが、上記リスクを認識していない場合、本プランにおけるリスクをキチンと把握した上で、取るべき対応策は幾つかありますので、ご紹介します。

 

契約者名義変更を止める

当初、想定していた時期に個人へ契約者変更を止めて法人で継続するパターンです。これであれば全く問題ありませんが、逓増定期の場合には、低解約返戻期間終了後に解約返戻利率のピークを迎え、その後は返戻率が下がっていきますから、これに対する対処が必要となります。

 

給付金受取人のみを変更

医療保険やがん保険の第三分野保険で、払込満了直前に契約者変更を予定していた場合、払込満了後も契約者は変更せずに給付金受取人のみを被保険者へ変更するという方法も考えられます。

 

所得税法9条ならびに所得税施行令30条を確認しましたが、非課税規定には、保険料負担者が明記されていないので、被保険者が受取る給付金は非課税になります。

 

ただし、法人で支払った保険料損金が否認されるリスクは残りますが、払込満了後から給付金を受取る期間までがどのくらい経っているか?は1つのポイントになるではないでしょうか・・・・

 

個人名義変更後は解約しない

逓増定期保険等で、法人から個人へ名義変更をする場合、一回分の保険料を支払うと解約返戻金は立ち上がりますが、すぐに解約をすることはリスクを伴います個人で資金が必要だったから法人から個人へ名義変更したと言っているようなものですから・・・・少なくとも解約返戻金が立ち上がった時に払済保険へ変更しておき、払済保険のままにしておくのがベストです。

 

どうしても・・・という場合は

どうしても契約者を個人へ変更したい!変更しなければならない!という場合には、契約者名義を変更することの経済的合理性を確立させなければなりません。

 

簡単に言えば、「なぜ契約者変更をしたのですか?」との問いかけに対して、契約者名義変更に対する合理性と必然性を説明する必要があります。逆に言えば、合理性と必然性がなければ、契約者名義は変更しない方が良いでしょう・・・・

 

ただし、生命保険契約を非適格現物分配として活用する場合は別ですが・・・・。

 

まとめ

キチンとリスクを認識せずに契約をしているケースを多く見かけます。提案をする保険営業パーソン側の認識不足&説明不足が原因であるケースが多いですが、まずはしっかりとリスクを認識して頂く必要があると思います。さらに医療法人においては、医療法違反に問われるリスクもありますので、くれぐれも慎重にご検討ください。

 

特に令和元年の法人税基本通達が改定され、生命保険を使った法人における課税繰延効果が得られなくなったために、「節税効果」がある本プランが注目されていますが、安易に導入すると思わぬリスクを背負う事になりますので、ご注意下さいませ。

 

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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