COLUMN

経営者の認知症に備える

高齢化が進行している日本において、当然ながら経営者の高齢化も同様に進行しています。

 

統計データによると経営者の半数以上が60歳以上で、70歳以上は約25%にもなります。

当然ながら高齢になればなるほど死亡リスクは高くなりますので、経営者に万が一の事態が発生した場合、法人にどのような影響があり、何をどう備えておくべきか?は過去に解説しました。

 

 

ただ本当に厄介なのは認知症を発症してしまうケースです。

 

内閣府のデータによりますと、2023年時点での65歳以上人口は約3,600万人。

 

このうち軽度認知障害(MCI)の高齢者は約564万人、認知症を発症している高齢者は約471万人とされています。

 

65歳以上人口のうち約15%がMCIであり、約13%が認知症という割合です。

 

すべてのMCI高齢者が認知症を発症する訳ではないようですが、実に高齢者の4人に1人が認知に関して何らかの症状を抱えており、7人に1人が認知症を発症しているというのが実態です。

 

ご存じのとおり認知症を発症すると、様々な制約がかかります。

 

民法 第三条の二 

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

 

この民法の条文に定められているように認知症を発症すると、法律行為は無効となります。

 

そのため、預貯金の引出しや金融商品の売買はできませんし、不動産関係の手続きも相続対策もできなくなってしまいます。

 

さらに厄介なのは経営者が認知症を発症すると法人運営に支障をきたし、取引先や金融機関・社員に対して悪影響を与えることになりますので業績悪化や信用低下につながりかねません。

 

そのため成年後見人をつけて各種対応を行うことになりますが、法定後見制度もいろいろと問題点があります・・・

 

経営者が成年後見人をつけてしまうと、代表取締役を退任しなければならなくなるという点です。

 

民法 第六百五十三条(委任の終了事由)

委任は、次に掲げる事由によって終了する。

一 委任者又は受任者の死亡

二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。

三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 

法人における取締役は法人と役員との委任契約ですから、経営者が認知症を発症し、後見開始の審判を受けると委任契約は終了となり、取締役を退任することになります。

 

ただし、会社法の規定により再任することは可能です。

 

会社法 第三百三十一条の二 

成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が、成年被後見人の同意(省略)を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければならない。

2(省略)

3(省略)

4 成年被後見人又は被保佐人がした取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。

 

令和3年に会社法が改正され、成年被後見人の取締役就任が条件付きで認められるようになりました。

 

ただ実際には認知症を発症している訳ですから、業務執行は困難だと思われます。

 

法人で想定している退職金・弔慰金を支払うために形式的に取締役とするのが現実的な再任理由でしょうか・・・?

 

ただでさえ認知症を発症するとややこしい事態になるのに、経営者が認知症を発症するとさらにややこしい事態になりますので、経営者の認知症対策はこれからの時代においては必須であると言えるかも知れません。

 

認知症発症前にできる対策としては、

  • 後継者の決定
  • 特例納税猶予による自社株贈与
  • 信託契約の組成
  • 任意後見契約の締結
  • 生命保険の加入

などが考えられます。

 

後継者がいない法人の場合には、認知症発症とともに廃業という選択肢も考えられます。

 

廃業の場合でも認知症を発症すると経営者自身では対応ができませんから、代わりに対応する人をあらかじめ想定しておく必要があります。

 

そう考えますと経営者は任意後見契約を締結しておいて、後のことを託す人を決めておく必要がありますね・・・

 

任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに将来の判断能力低下に備え、信頼できる人との間であらかじめ任意後見契約を結ぶ制度です。

 

公正証書により契約を結び、判断能力が低下したときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、契約の内容に沿って支援が開始されます。

 

なお法定後見と任意後見であれば任意後見が優先されますので、親族を後見人に確実にしたい場合にはあらかじめ任意後見契約を締結しておく必要があります。

 

後見制度ができた当時は、80%程度は後見人として親族が選ばれていたようですが、親族後見人による財産の使い込みが多発したために、最近では親族が選ばれる割合は20%程度にまで下がっているようです。

 

特に自社株を保有している経営者の場合、経営者が希望していたような意思決定が第三者の後見人の場合にはできないことも想定されますし、そもそも第三者が法人の経営に関与する状態となりますので、自社株を保有する経営者は任意後見契約を事前に締結しておくことは、優先順位が高い対策であると言えます。

 

そして認知症を発症すると生命保険契約も締結できませんから、事前にあらゆる事態を想定し必要な保障は確保しておくべきです。

 

65歳を超えた経営者に、相続や事業承継にからめて認知症発症対策も検討しておきたいところです。

 

当然ながらリスクマネジメントとして、認知症予防の取組も必要です。

 

「認知症予防」で検索するといろいろなサイトがでてきますので、一度検索してみてください。

 

経営者の突然の死亡も大変ですが、認知症はもっとややこしくて大変です。

 

特に経営者が高齢で、後継者がいない・決まっていない法人については、認知症対策については早急にご検討ください!

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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