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経営者の保障額は幾ら必要か?

事業を行う上で、経営者に万が一の事が発生した場合への備えは必要不可欠です。残された社員・家族に迷惑を掛けないためにも、どんなに小さな事業でも、経営者には一定額の生命保険による保障が必要になります。

 

では経営者の保障はどのくらい必要なのでしょうか?今回は「経営者の必要保障額」について考えます。

有事の際に事業は・・・・

一番最初に考えなければならないのは、経営者に万が一の事が発生した場合、その事業がどうなるか?ということです。一般的には、

①事業の清算

②事業の売却

③事業の継続

の3つのうち、いずれかの方法を取る事になります。それぞれの方法を取る際に「幾ら必要か?」が必要保障額になります。

 

①事業の清算

経営者が不在になる事で、その事業を完全に止めてしまうケースです。多くの中小零細企業においては、この事業清算を想定しているケースが一番多いでしょう。

 

事業清算の場合の必要保障額は、簡単に言えば、

保有している資産-支払うべき負債=必要保障額 

となります。

 

もう少し正確に説明をしますと、決算書の貸借対照表に記載されている資産の部にある金額をすべて時価に評価をして、負債の部にある金額を支払えるか?ということになります。

 

実際に注意しなければならないのは、資産の部に計上されている資産が本当に価値があるかどうか?という点です。特に売掛金や在庫において、不良債権や不良在庫が処分されずに計上されていると、時価額は大きく減少することになります。

 

あとは負債の部に計上されていないが、支払わないといけないお金です。代表例が退職金で、事業を清算するわけですか、死亡した経営者だけでなく他の役員・従業員に退職金を支給しなければならない場合には、この退職金を考慮しなければなりません。

 

特に中小零細企業の決算書には「役員退職給与引当金」や「従業員退職給与引当金」という科目がないケースが多く、いわゆる退職給付債務が不明なケースが多くあります。そのために必要保障額を検討する場合には、役員・従業員の退職金額とその準備状況を確認する必要があります。

 

なお死亡した経営者に対する死亡退職金は、残された経営者のご家族にとってはその後の生活資金になりますので、死亡退職金は必ず支払えるように準備しておくべきです。詳細は後述します。

 

これら資産と負債の状況を正確に把握した上で、そのバランスがどうなっているか?によって対策が異なります。

 

資産の時価評価>負債額 の場合

この場合は、特に問題はありません。ただ残された資産額が多ければ多いほど、株式を相続した相続人に対して、法人解散時に分配される残余財産額は多くなりますので、相続人の人数や構成・状況などを考えてどの程度を想定するか?を検討する必要があります。

資産の時価評価<負債額 の場合

このままでは事業を清算することが出来ず、残された家族や従業員が困ることになりますので、最低でもこの不足額分を生命保険で手当する必要があります。

 

ただここで注意しなければいけないのは、経営者が死亡時に法人が受け取る生命保険金は、その契約において保険料支払時に資産計上された部分を差し引いた額が「益金」として計上されますので、保険金が支払われる事業年度において赤字があるか、繰越欠損金がなければ、その益金額は法人税の課税対象となります。

 

そのため、生命保険金は法人税納税を考慮しなければならず、その際の計算式は下記になります。

必要保障額=(資産の時価評価ー負債額)÷(1-法人実効税率)

 

例えば、資産の時価評価と負債額の差額が5,000万円で法人実効税率を30%と仮定した場合、

5,000万円÷(1-30%)=7,143万円

となり、7,143万円の保険金を受取り、約2,143万円の法人税等を支払ったのちに5,000万円が手元に残ることになります。

 

②事業の売却

経営者が不在となることで、事業は継続できないが、同業他社などへ事業を売却するケースも想定されます。

 

この場合、相続人が法人の株式を売却をして経営権を手放すということも想定されますし、法人の株式は保有したまま事業だけを他社へ売却することも想定されます。例えば法人で不動産等を所有している場合には、事業だけを他社へ売却をして、法人は不動産管理法人として事業形態を変更して継続するようなケースです。

 

いずれにせよ事業を売却する訳ですから、ポイントはいかに高く売るか?です。そのためには事業における借入金は返済しておくことがベストであり、経営者に万が一の事態が発生した際に、受け取る保険金で前述のとおり納税額を考慮した保険金額の設定は必要です。

 

あとは、実際にどのような売却になるか?を想定したうえで、考えられる諸費用分を保障として確保しておく必要があります。

 

③事業の継続

事業を後継者が引継ぐ場合、経営者が交代する事によってどのような事態が想定出来るか?を検討します。

 

真っ先に検討しなければならないのが、金融機関等からの借入金があるケースにおいて、負債を少しでも減らしておくことです。負債がゼロになる、もしくは減らすことが出来れば、後継者が引き継ぐ場合も楽に引き継ぐことが出来ます。

 

次に経営者が交代する事で発生する経営への影響です。多くの中小零細企業の場合、社長がトップセールスであることが多いので、社長交代に伴い売上や粗利益の減少が想定されるだけでなく、取引先や金融機関からの取引条件変更などにより資金繰りが悪化する事が想定されます。この売上や粗利益の減少は、想定される割合を算出した上で、運転資金に与える影響を考慮しなければなりません。

 

なお企業における運転資金は、

(売掛金+受取手形+在庫)−(買掛金+支払手形)

にて算出を行います。この運転資金を確保してあれば後継者としても少しは安心して経営が出来ますが、出来れば将来10年間くらいに渡って、経営者交代により決算書上の数値がどのように変化するのか?はシミュレーションしておくとよいでしょう。

 

この際に注意しなければならないのは、法人が受け取る保険金に対する法人税課税と、売上減少・利益減少・経費増加の事業年度が異なることが想定される点です。そのために保険金額の設定については注意が必要となります。

 

退職金+弔慰金

経営者が死亡する事により、「死亡による退職」となりますので、退職金を法人から支給する事が出来ます。この死亡退職金は、残された家族に対する保障にもなりますし、相続人への相続財産にもなりますので、必ず支払えるように準備をしておきたいものです。

 

退職金

退職金は、結論から言えば幾ら支払っても構いません。極論を言えば、残されたご家族がその後、安心して生活できるだけの資金を退職金として支給すれば良いと思います。あとは事業が継続する場合には、後継者がその後の資金繰りに困らない資金を確保出来ているのであれば、幾ら支給しても構いません。一般的に退職金を計算する計算式として、

最終役員報酬月額×功績倍率×在任年数

という計算式が有名ですが、これはあくまでも「法人税法上、損金として認められる金額の目安」であり、損金算入が出来ない金額を退職金で支払ってはいけないという訳ではありません。

 

例えば、まだお子さんが小さい法人経営者の場合、そのお子様が大学を卒業するまでの生活資金・住居費・教育資金などを計算すると5,000万円だったとします。ですが、創業して間もないころは在任年数が伸びないだけでなく、役員報酬もそれほど取れませんから、上記計算式で計算した損金算入できる退職金額が2,000万円だったとします。

 

そうすると、5,000万円―2,000万円=3,000万円は、法人税法上の損金として認められませんから、保険金額5,000万円を受け取って5,000万円を退職金で支給をしても、3,000万円×法人税30%=900万円は課税対象となります。

 

そのために3,000万円÷(1ー30%)=4,285万円+2,000万円(損金算入金額)=6,285万円の保険金があれば、約5,000万円の退職金を損金算入できない部分の法人税を考慮すれば十分という事になります。

 

ちなみに上記算式の危うい点は、功績倍率は一律で認められるのではなく、あくまでも退職金支給額が、「同一地域・同一業種・同一規模」の支給状況と照らし合わせた時に妥当か?という判断になります。この判断は税務署にしか出来ないので、税理士も会計事務所も「正しい退職金額」は分からないという事になります。

 

そのために上記計算式で退職金を計算するのではなく、「幾ら必要か?」という観点で算出をした上で、法人税法上、損金が認められずに法人税を納税する事も考慮した金額で保障を確保することをオススメします。

 

弔慰金

弔慰金についても同様に、

業務上死亡時:役員報酬月額×36ケ月分

業務外死亡時:役員報酬月額×6か月分

を支給できるという様な事がまことしやかに言われていますが、この計算式は相続税が非課税とされる計算式であり、支給する法人側で損金算入が認められるかどうかは別問題となります。

 

<国税庁HP>

No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い

 

一般的に法人側は、前述の退職金とこの弔慰金の合計額が、「同一地域・同一業種・同一規模」の支給状況と照らし合わせた時に妥当か?という判断になると言われておりますので、この弔慰金を支給する事を前提にするのではなく、あくまでも退職金で残されたご家族や相続人が必要な資金を準備しておく事が重要でしょう。

 

まとめ

法人における必要な保険金額は、法人や事業の特性、経営状況、後継者の有無、家族保障、相続対策などあらゆる観点から多角的に検討をする必要があります。そのために法人の経営に精通している保険営業パーソンか、保険に精通している税理士にご相談される事をオススメします。

 

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<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

 

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