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理事長退職金の注意すべきポイント

医療法人の理事長(役員)退職金を実際に支給について、注意すべき主なポイントは2点あります。退職金の準備や積立などを検討して頂く場合には、このポイントを必ず押さえておいて下さい。

まず1点目は、そもそも「役員退職金支給にふさわしい退職かどうか?」という点です。これは法人税基本通達9−2−32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)に細かく規定されています。

 

法人税基本通達で掲げているポイントは以下の通りです

・常勤理事が非常勤理事になった場合

・理事が監事になった場合

・変更後の役員報酬が50%以上減額された場合

・これらの変更により、地位と職務内容が『激変』した場合

これらに該当する場合には、退職時に支給する退職金を損金計上して良いとされています。重要なのは3番目の「変更後の報酬」と4番目の「地位と職務内容が『激変』した場合」です。

 

 まず先生方から多くご相談を頂くケースとして、ご子息等の後継者がクリニックへ戻って来てから、2診体制で一緒に診察を行い、一定期間が経過したのちに理事長職を後継者へ譲り、そこでご自身は退職金を貰った後も、いままでと同じように診察を続けたいというご要望を頂きます。

 

 ここでのポイントは、理事長勇退後の役員報酬額と診察の実態・権限の委譲です。実際に理事長から理事に変わって、役員報酬を50%以上減らしても

 

・診察日数が変わらない

・実印・銀行印を管理している

・院内における席の位置が同じ

・理事会等、重要な会議に出席している

・その他経営上に影響力を持っている

 

などの状況が認められた場合には、退職とはみなされずに支給した退職金が役員賞与と認定されるケースもあります。そのためにまずは、退職金を支給するに値するだけの業務内容の変更が必要であるという事が大前提となります。

 

 次に法人税基本通達では、役員報酬を50%以上減額すると書かれていますが、現在月額報酬を300万円とっておられる理事長の役員報酬を150万円に減額をすれば認められるか?と言えば、これは難しいのではないでしょうか?

 

実際に他の理事や職員への支給状況と照らし合わせた時に「高額な役員報酬だ」と認定されると前述の通り、役員退職金が否認されるリスクもあります。そのためには、理事長職を譲られて退職金を支給した後の対応としては、

 

・診察は週1日1コマ程度のイメージ

・実印や銀行印などは一切管理しない

・医療法人やクリニックの運営に口を出さない

・役員報酬は退職前の50%以上減額し、月額30万円程度の支給にとどめる

 

などの対応が必要となります。そのために退職時期と退職後の生活資金・保有資産などをしっかりと考えた上での退職金準備やプランニングが必要となります。

 

あとは、そもそも支給する役員退職金支給額が適正かどうか?という点です。過大な役員退職金は、法人税法の規定により損金不算入となるケースもあります。この「過大な役員退職金」とはどの様に判定されるのでしょうか?法人税法の規定では以下の様に定められています

 

その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(法人税法施行令70条1項)

 

簡単に言いますと、同じ地域の同規模の医療法人と比較をして過大か過大でないか?を決めると定められています。残念ながら同じ地域の同規模の医療法人と比較が出来るのは税務署だけであり、一般にはデータは公開されていないので注意が必要です。そのために役員退職金支給については、税理士や所轄税務署と綿密な打合せを行って頂く必要がありますので、この点については十分にご注意下さい。

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

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