COLUMN

仮払金清算プランを考える

以前によく生命保険を活用した「仮払金清算プラン(通称Kプラン)」が、最近になって耳にするようになりましたが、このプランは慎重に検討する必要があります・・・

仮払金とは?

法人が社長に貸したお金を仮払金や社長貸付金の勘定科目で決算書に記載をしていると、金融機関は絶対に金を貸しません。なぜなら社長個人が法人の資金を「私的に使っている」ために出ることが多い科目であるために、金融機関は「貸した金が事業に使われずに社長の懐へ入る」疑いを持つからです。

 

もちろん、社長が法人に私的流用した訳ではなくとも、その時に処理をした会計事務所が「役員貸付金」や「仮払金」等の科目を使っている事もありますので、一概には言えませんが、この科目は通常「存在してはならない科目」と言えます。ちなみに過去の記憶では、役員貸付金や仮払金では決算書の見た目が悪いので「建物仮勘定」なる意味不明な科目で処理をしているケースを見たこともあります・・・

 

この残高がある程度の金額になると、なかなか消せないために編み出されたのが「生命保険を使った仮払金清算プラン」です。

 

生命保険を使ったスキームの解説

スキームは以下の通りです。

 

1)リース会社等が社長へ仮払金残高と同額のお金を貸し付けます。

2)社長は借りた資金で法人に全額返済します。

3)返済を受けた法人は「役員貸付金」「仮払金」の残高がゼロになり、普通預金残高が同額増えます。

4)契約者=法人・被保険者=社長・保険金受取人=法人、にて返済を受けた資金を保険料にして一時払い又は全期前納の生命保険に加入します。

 

5)保険契約が成立したら、社長個人へ融資したリース会社等がその保険契約に質権設定を行います。

6)社長はリース会社等から受けた融資を毎月返済をします。

7)社長がリース会社等の融資を完済すると、融資をしたリース会社等は生命保険契約の質権を抹消します。

8)その後は残った生命保険をどうするか?は契約者である法人の自由となります。

 

これがKプランの全容です。

 

仮払金の問題点

そもそもの大前提としてなぜ役員貸付金や仮払金という残高が発生しているか?という問題がまずあります。それぞれの法人において事情はあるのでしょうがおおむね、「社長の可処分所得が少ないので法人の資金を流用している」という理由が多いです。この理由と近いですが、資金管理がキチンと出来ていないので社長が会社の資金を私的に使うことを防げずにいる状態であることも多いです。

 

ですので、以前に井上得四郎先生が

「社長貸付金や仮払金は顧問会計事務所がキチンと経営指導が出来ていないことを表す恥ずかしい勘定科目だ」

とおっしゃったことがあり、その印象が強く残っています。

 

そのために本来であれば、社長貸付金や仮払金が発生した原因と突き止めたうえで、まずはKプランで清算するよりもこの役員貸付金や仮払金の残高を減らす様、経営改善をすべきです。

 

ですが、その改善は時間が掛かるため、何らかの理由で早急に処理をする必要がある場合には生命保険を活用したKプランの導入を検討する事になります・・・

 

生命保険を活用した仮払金清算プランの条件

ちなみにこのKプランに使える保険には幾つかの前提条件があります。

 

〇保険証券を担保にしての融資ですから、解約返戻金>融資残高となる契約でなければ、融資をしたリース会社等は債権保全が出来ません。

 

〇質権設定をしていますので、被保険者が死亡した場合には保険金は融資をしたリース会社等が受取り、融資残債を清算しても残る保険金は保険金受取人へ支払われます。

そのために被保険者が死亡した場合に保険金が支払われる契約でなければKプランは成立しません。

 

ですから、私がKプランを扱っていた十数年前は一時払い終身が主流でした。ただ予定利率の引き下げにより、一時払い終身が使えなくなると、3年~10年短期払いの終身保険の全期前納を使う事が多く、最低でも初年度から一定率以上の解約返戻率が確保出来ないと、リース会社等は生命保険を担保として取らず融資を実行しませんでした。

 

現状は・・・

ところが、最近某生保会社が終身保険や災害保障定期を活用してKプランを推進しているとの話を聞いてビックリしました・・・・

 

しかも終身保険は円建てですから返戻率は高くないですし、災害保障定期に至っては一定期間で解約返戻率がピークに達した後は年々減少する上に、第一保険期間中は災害保障しかなく、その間の死亡リスクはどうするのか?など問題は山積みです。 

 

現在のスキームについて考えられる問題点を列記します。

 

<問題点1>

災害保障定期を仮に返戻率ピークの5年目までの保険料を前納にしたとしても、初年度返戻率は95%を確保出来るかどうか?というレベルであると想定出来るので、それに対して質権設定を行って融資をするリース会社は債権保全が十分出来ていない状態で融資する事になります。

 

<問題点2>

そもそも災害保障定期ですから、第一保険期間中は災害死亡については保険金が満額支払われますが、病気死亡の場合は責任準備金しか支払われません。もちろん前納保険料分がありますので、ある程度は回収出来るのでしょうが、元金返済が進んでいない1年目~3年目くらいは融資残高と病気死亡時の支払金額に乖離が出る事が想定されます。

 

<問題点3>

過去のKプランにおける最大のポイントは、融資の返済が終わって質権設定が外れると解約返戻金が当初支払った保険料より増えていた点です。

災害保障定期を使うと、6年目以降は解約返戻金が減っていきますから、契約者にとってはその時点で解約しなければ損になり、その時点で資産計上残高との差額を益金計上する事になり、余計な納税が発生することで手元資金が目減りします。

 

<問題点4>

この生命保険会社の災害保障定期を使うと、5年目が返戻率ピークですから、少なくとも5年間で仮払金清算のために借りた資金を返済する必要があり、かなりタイトな返済スケジュールになると思われます。 

 

以上の問題点を踏まえて、私は「災害保障定期をKプランに利用するのは不適切だ」と思いました。さらに最近、積極的に推進しているリース会社では、解約返戻率が70%以上あれば本スキームを実行しているとか・・・

 

 

 

まとめ

法人決算書上に「仮払金」「役員貸付金」という勘定科目が出来ていることが異常事態ですから、まずはこの発生原因を突き止めて改善することが第一優先です。その上で、どうしてもすぐに「仮払金」「役員貸付金」を消す必要があるのであれば、単純返戻率が限りなく100%に近い保険商品を活用すべきですし、リース会社等からの借入金を返済する頃には払込保険料よりも解約返戻金が多くなっている保険商品を選ぶべきです。

 

さらに言えば、借入返済中に死亡するリスクを考慮しますと、生命保険として機能する商品にすべき事は言うまでもありません・・・

 

なお医療法人が所有する資産を理事長や理事の借入に対する担保として提供することは、配当類似行為とみなされて医療法54条違反と言われるリスクがあることを十分にご留意下さい。

 

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

 

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