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生命保険「契約」の特別受益該当性を考える

「特別受益」とは、読んで字のごとく、生前に相続人が被相続人から特別に受取った利益や相続開始後の遺贈によって、特別に受取った利益のことを指します。

 

特定の相続人だけが利益を受けていると、法定相続分通りに遺産分割をした場合には他の相続人が不利になってしまいます。そのために、民法903条において特別受益者の相続分についての規定があります。

 

民法九百三条(特別受益者の相続分)

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2)遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3)被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4)婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

 

そしてご存じの方も多いと思いますが、「生命保険金」は特別受益に該当しないというのが通例です。

 

本来、受取人固有の財産といわれる死亡保険金が、特別受益に該当するかどうかを争った平成16年10月29日の最高裁判決では、「相続人間の不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほど著しいものと評価する特段の事情が存する」場合には特別受益に準じて持ち戻しの対象とする、とあります。

 

過去の判例は、遺産総額のうち90%以上が生命保険金であった場合には特別受益性が認められたものがあります。このように「到底是認できない不公平」がある場合には、特別受益として認定し相続財産に持ち戻して遺産分割協議を行うことになります。

 

このように基本的には相続人が受取る生命保険金は特別受益に該当しませんが、前述の通り大きな不公平がある場合には特別受益として認定されるというのが一般的な見解です。

 

 

では「生命保険金」ではなく「生命保険契約」の場合はどうでしょうか?

 

<パターン1>
契約者=A ※保険料負担者=A

被保険者=B

保険金受取人=C

という契約形態の生命保険で契約者Aが死亡すると、本契約は「相続財産」となり遺産分割協議の対象となります。


<パターン2>
契約者=B ※保険料負担者=A

被保険者=B

保険金受取人=C

という契約形態でAの相続が発生すると、契約者=B・保険料負担者=A なので本来の「相続財産」とはならずに「みなし相続財産」となります。ですが、この契約形態については保険契約の金額や状況によっては特別受益に該当するケースもあり得ます。

 

 

詳細にみていきます・・・・

 

<みなし相続財産>


みなし相続財産については相続税法3条1項3号に下記の規定があります。

 

相続税法第三条 (相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)

次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(省略)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。

一項三号
相続開始の時において、まだ保険事故(共済事故を含む。以下同じ。)が発生していない生命保険契約(一定期間内に保険事故が発生しなかつた場合において返還金その他これに準ずるものの支払がない生命保険契約を除く。)で被相続人が保険料の全部又は一部を負担し、かつ、被相続人以外の者が当該生命保険契約の契約者であるものがある場合においては、当該生命保険契約の契約者について、当該契約に関する権利のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で当該相続開始の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

 

ここで明記されていますので、【パターン2】の契約形態は「みなし相続財産」に該当するという認識で問題ないと思います。

 

<特別受益>

先ほど例として挙げた【パターン2】の契約形態の場合については、明確に贈与や遺贈があったとは言えませんが、支払った保険料の大きさや相続発生時点における解約返戻金の大きさによっては、他の相続人が特別受益だと主張することが出来るのではないでしょうか?

 

例えば一時払で数千万円の保険料の生命保険契約を 契約者=B・保険料負担者=A で契約していた場合で、Aの相続発生後にB以外の相続人がこの契約の存在を知るとどうなるでしょうか?

 

この場合、他の相続人は「みなし相続財産」となった生命保険契約について遺産分割協議の財産に含めることは出来ませんが、この生命保険契約を「特別受益」に該当するので持ち戻すように主張することは出来ます。

 

なお民法904条において、特別受益については相続発生時の時価で評価をするとありますから、払込保険料総額ではなく解約返戻金で生命保険契約を評価します。当然ながら未経過保険料や前納保険料がある場合にはその額も評価に加算されます。

 

先ほどの例で挙げた生命保険契約は一時払契約ですから、相続発生時点において多額の解約返戻金があるのが一般的です。そのために相続発生時点での解約返戻金額が特別受益による持ち戻しの対象になるとみるのが一般的でしょう。

 

ただし、【パターン2】の生命保険契約が解約返戻金のないタイプの保険であればどうでしょうか?相続発生時点における解約返戻金はありませんので、当然ながら特別受益には該当せず、持ち戻しの対象にはならないでしょう。

 

 

■まとめ

生命保険契約を遺産分割協議の対象から外すことを狙ったスキームとして紹介している保険営業パーソンがいる様ですが、契約形態や保険料負担の実態・解約返戻金の有無など契約内容によっては、思惑とは違う揉め事を引き起こすケースも想定されます。

 

ただでさえ揉めやすい遺産分割協議をさらにややこしくする可能性がありますので、ご自身以外の方を対象に生命保険契約を行う場合には、くれぐれも慎重にご検討くださいませ。

 

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

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