COLUMN
役員退職金を考察する
本稿では、役員退職金を徹底的に掘り下げてみたいと思います。

役員退職金と言っても死亡退職金と生存退職金に分かれますので、まずはそれぞれの退職金について考察します。
●目次
〇死亡退職金
死亡退職金の支給目的としては、
・遺族の生活保障
・相続税納税資金の確保
(死亡退職金の非課税枠活用)
などが挙げられます。
残された家族が困らないだけの個人資産や個人生命保険契約がない場合、遺族の生活保障としての死亡退職金は必要となります。
ただここで大きなハードルがあるのは、死亡退職金の支給について支給する法人側の整備ができているかどうか?という点です。
ポイントは定款・退職金規定です。
まず定款上で死亡退職金支給について明確な規定がない場合には、株主総会決議が必要となります。遺産分割協議が整うまでの間は、被相続人が保有していた自社株式は全相続人が準共有している状態のため株主総会決議には全相続人の中から議決権を行使する「権利行使者」を1名定める必要があります。
そして全相続人の同意を得て議決権を行使することになるのですが、まずは全相続人の同意が取れるのか?という問題点があります。
次に債務超過や個人連帯保証をしているようなケースでは相続放棄も視野に入ってきますが、議決権行使をして時点で民法で定める「財産処分行為」に該当しますから、相続放棄ができなくなります。ですので、第一段階としては死亡退職金支給については、株主総会決議が不要とする内容へ定款変更を事前にしておく必要があります。
※定款変更は株主総会の特別決議が必要
次に役員退職金規定ですが、規定がなくても死亡退職金を支給することは可能ですが、規定がない場合には死亡退職金は「みなし相続財産」ではなく「相続財産」として取扱われてしまう可能性があります。
死亡退職金が本来財産となれば、遺産分割協議の対象財産になりますし、何より相続放棄をすると受取ることができません。
死亡退職金が「みなし相続財産」として認められるためには、死亡退職金の支給規定がある上で、
・遺族の生活保障が支給目的であること
・受給権者が定められていること
の2点が必要だと最高裁判例で明示されています。
そのため法人の経営状況や個人財産の状況にもよりますが、死亡退職金支給については定款と規定の整備は必須条件です。
ちなみに生命保険金を死亡退職金の原資とする場合には、死亡保険金の請求を行うことになります。
死亡した役員が代表者である場合は、代表者変更が必要な保険会社かどうか?も重要なポイントです。
死亡保険金請求時に代表者変更が必要な場合には、代表者変更手続きを行わなければ保険金請求ができません。代表者変更手続きも定款上で定められた方法に則って行いますので、ここでも定款が大きなポイントになります。
定款上で代表者変更については、株主総会決議が必要とされていれば前述の問題点がでてきますので注意が必要です・・・
なお法人の経営状況によっては、死亡退職金の支給が債権者への詐害行為と認定されるリスクもありますので、このあたりは十分注意が必要です。
次に相続税納税資金として死亡退職金を支給する場合も前述の通り定款と規定が必要になりますが、加えて注意が必要になるのは過去の退職金支給実績です。
分掌変更等で過去に役員退職金の支給実績がある場合には、死亡退職金の損金算入について制限が入る可能性がありますので注意が必要です。
ただし仮に法人側での損金算入が否認されたとしても、遺族は非課税財産として受取ることができますので、十分にメリットはあると思います。
〇生存退職金
生存退職金についても、定款に則って支給することになりますが、役員死亡時とは異なり、株主(社員)総会決議は対象者が存命している状態ですので、比較的支払はしやすくなります。
ですので、ポイントになる点としては
・支給額の準備
・支給額の損金算入
・分掌変更かどうか
の3点になると思います。
1)支給額の準備
当然ながら退職金を支給するためにはその原資を準備しておく必要があります。実務上は分割支払も認められていますが、一般的には4年を超える分割の場合には退職年金と認定されるリスクがあります。
退職年金として認定されてしまうと、退職所得ではなく雑所得となり税負担が増える可能性もあります。
ですので、基本的には一時金で支払えるだけの原資を積立しておく必要があります。
この退職金積立にはやはり生命保険がベストだと思います。生命保険の場合は、死亡保障がついていますので生存退職金の準備をしつつ死亡退職金の準備もできますので、生命保険活用がベストですね。
※ただしどの保険商品を活用するかは非常に重要なポイントです。
積立を行うのと同時に、役員退職金規定の整備と役員退職引当金の計上も重要なポイントになります。
2)支給額の損金算入
法人税法第34条にて不相当に高額な部分は損金算入されないと規定さています。そして法人税法施行令第70条2項において、
・当該役員のその内国法人の業務に従事した期間
・その退職の事情
・その内国法人と同種の事業を営む法人で、その事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況
などを踏まえて、不相当に高額かどうかを判定すると定められています。
このため、退職金額に対する損金算入額は税理士先生は意識をするでしょうが、明確な基準があいまいであるため、退職金原資をキチンと確保した上で、幾らの退職金にするか?は株主(社員)総会が決めればよいと思っていますし、個人的には取れるだけ取れば良いと考えます。
法人側の損金算入は重要な検討材料の一つだとは思いますが、退職金額の多寡に退職所得になるかどうか?は関係ないことを考えれば、それほど重要なことでないように思います。
3)分掌変更かどうか
分掌変更とは、役員が代表取締役から取締役、常勤から非常勤または取締役から監査役など、職務内容や地位が激変し、実質的に退職したと同様の状況になることを指します。
法人税基本通達9-2-32に、
分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
という規定があります。
この規定を捉えて、役員報酬を半分以下にすれば良いと考えている人もいるようですが、この通達にはかっこ書きで、
実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く
という一文があります。ですので、単に役員報酬を減額するだけでは分掌変更とみなされない可能性が高いので、分掌変更時に支払った退職金が否認され役員賞与として認定されるリスクがあります。
退職金として認定されれば、法人税法第34条の規定により損金算入が認められ、受取った側は退職所得として課税されます。しかし退職金が否認されて役員賞与と認定されてしまうと、法人側の損金算入は認められず、受取った側も退職所得ではなく給与所得となり莫大な税負担が発生します。
ですので、分掌変更時の役員退職金支給は要注意です。特に退職金原資に生命保険の解約返戻金を使う場合には、分掌変更による退職金が否認されると上記リスクに合わせて、生命保険契約の解約金に対する益金課税も発生しますので、トリプル課税となります・・・
〇退職金の計算方法
一般的な役員退職金の計算に用いられる方式としては、
・最終報酬月額(功績倍率)方式
・最終報酬月額方式
・役位別算出方式
・1年あたりの平均額方式
の4つが挙げられます。これらについて確認をしていきます。
・最終報酬月額(功績倍率)方式
一般的によく見かける計算式で、
最終役員報酬月額×役員在任年数×功績倍率
という計算をする方式です。
この計算式の場合、年金受給目的や分掌変更・業績不振等の理由により役員報酬を減額している場合の取扱をどうするか?という問題が生じます。
前述の通り、個人的には役員退職金の損金算入については意識しなくて良いと思う派なので、損金算入という観点ではなく、しっかりと役員退職金を取って貰いたいという観点での問題提起です。
分掌変更時に退職金を支給しているのであれば問題はありませんが、分掌変更後の役員退職時に退職金を支給する場合には最終報酬月額(功績倍率)方式ですと、支給できる退職金額が少なくなる可能性があります。
これは功績倍率を掛け算しない最終報酬月額方式も同様で、最終報酬月額方式は単純に「最終役員報酬月額×役員在任年数」で計算を行います。
いずれの方式も最終役員報酬月額が計算基準に入っている限りは、役員報酬の支給状況によって退職金額が左右されることになります。
ですので、業績が比較的安定している法人や医療法人であれば、最終役員報酬月額方式は良いのかも知れませんが、そうでなければ違う方式を採用した方が良いかも知れません・・・
・役位別算出方式
退任するまでに在位した役位ごとに退職金額を計算して、それぞれを合計して算出する方式です。
一般的には、
役位別基準報酬月額×役位別在任年数×役位別功績倍率
で計算をして、すべてを合計して役員退職金を算出する方式です。
例えば
<取締役>
基準報酬額70万円
役位別功績倍率1.8倍
<代表取締役>
基準報酬月額150万円
役位別功績倍率3.0倍
<会長>
基準報酬月額100万円
役位別功績倍率2.5倍
などと設定し、取締役在任年数10年・代表取締役在任年数15年・会長在任年数5年、だった場合、
<取締役>
70万円×10年×1.8倍=1,260万円
<代表取締役>
150万円×15年×3倍=6,750万円
<会長>
100万円×5年×2.5倍=1,250円
1,260万円+6,750万円+1,250万円=9,260万円(退職金支給額)
という風に計算をする方式です。
この方式ですと、経営状況に支給金額が左右されることはありませんので、死亡により想定外のタイミングで支給する場合や、業績変動が大きくて役員報酬が変動する業種でもキチンと支給をすることが可能になります。
注意点としては、役位別基準報酬月額を幾らにするか?という点で、客観的にみて納得感のある金額を設定する必要があります。
繰り返しになりますが、支給する役員退職金の損金算入可否は度外視していますので、ご留意ください。
・1年あたりの平均額方式
役位別に1年あたりの平均金額を決めて、在任年数を掛けて算出する方式です。
この方式も役位別算出方式と同様に、最終役員報酬月額に左右されずに支給することができます。
平均額をどう設定するか?という問題はありますが、妥当性のある設定ができれば退職金計算式としては悪くないと思います。
以上、代表的な役員退職金計算方式を確認してみました。個人的には、役位別算出方式または1年あたりの平均額方式が、最終役員報酬月額に関わらず支給できるので無難なように思います。
ただオーナー経営者や親族役員などに多くの退職金を支給したい場合には、上手く対応ができませんので、規定に「功労加算金」の項目を設けておくのも良いと思います。
支給する役員退職金の損金算入可否は、支給額決定に大きな要因の一つになるかもしれませんが、前述の通り「税務署の顔色を伺って退職金を出す」ということに違和感を感じますので、特にオーナー経営者であれば「出せるだけ」「取りたいだけ」「必要な分だけ」退職金を出せばよいと思います。
<文責>
株式会社FPイノベーション

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