COLUMN

医療法人における名義変更プランの落し穴

平成27年改正医療法が平成28年9月1日より施行されています。今回の医療法改正についての詳細はコチラをご確認下さい。

 

厚生労働省 医療法人・医業経営のホームページ

医療法の一部を改正する法律について

 

 

今回の法律改正のポイントを簡単に言えば「地域包括ケアシステム導入」「医療法人のガバナンス強化」です。

※地域包括ケアシステムについての詳細は割愛します。

 

医療法人運営において、注目しておかなければならないのは医療法人のガバナンス強化」です。特に注意が必要なのは医療法47条の改正です。

 

〇第八款 役員等の損害賠償責任

第四十七条を次のように改める。

 

第四十七条

社団たる医療法人の理事又は監事は、その任務を怠ったときは、当該医療法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

2.社団たる医療法人の理事が第四十六条の六の四において読み替えて準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項の規定に違反して同項第一号の取引をしたときは、当該取引によって理事又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

 

3.第四十六条の六の四において読み替えて準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項第二号又は第三号の取引によって社団たる医療法人に損害が生じたときは、次に掲げる理事は、その任務を怠つたものと推定する。

一、第四十六条の六の四において読み替えて準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項の理事

二、社団たる医療法人が当該取引をすることを決定した理事

三、当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事

 

4.前三項の規定は、財団たる医療法人の評議員又は理事若しくは監事について準用する。

(以下 省略)

 

簡単に言います。

 

「医療法人に損害を与えた理事・監事は損害賠償責任を負います」という事なんです。

 

一般法人の取締役が課せられている、善管注意義務を医療法人の理事・監事にも、適用されるという事が今回の法改正に盛り込まれています。

 

ちなみに善管注意義務とは・・・

《「善良な管理者としての注意義務」の意》

業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。 注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となる。善良なる管理者の注意義務。

※コトバンクより抜粋

 

一番分かりやすい例が株主代表訴訟ですね。経営上のミスで損失をだし、会社の利益を減少させ、結果として保有株式の価値が下がってしまった場合、株主は株主代表訴訟を起こして損失を出した役員を訴える事が出来ます。最近の例では東芝の株主が株主代表訴訟を起こしていますね。

 

それ以外にも有名な代表訴訟では旧大和銀行ニューヨーク支店事件や蛇の目ミシン事件・ダスキン事件などがあります。

※ご興味のある方はそれぞれのキーワードで検索してみて下さい。

 

ちなみに一般社団法人や公益社団法人・公益財団法人は、平成20年に施行された公益法人制度改革関連3法案にて理事の善管注意義務が謳われており、医療法人はこれを追随する形で法改正が行われています。

 

医療法人を経営していて、想定される大きな損失と言えば保険契約を法人名義から個人名義に変更する「名義変更プラン」(MHP)が代表格です。もちろん日々の経営の中で労務トラブルや医療過誤により、損害賠償を受けて大きな損失を出すこともありますが、これらはリスクマネジメントを適切に行えばある程度は回避出来ます。ただこれらのトラブルについて、万が一回避出来なかった場合やブランドイメージを毀損して大きな損失が発生した場合には大問題になる可能性があります・・・

 

この問題はいったん置いておいて、MHPに話を戻します。MHPは理事長ならびに理事が意図的に行う取引で、損失を計上する事になります。なお今回の改正医療法47条ではMHPによって生じた医療法人の損失は、その利益を受けたものが補てんをしなければならないとされています。

 

では、実際に誰がMHPをした理事長や理事を訴えるのか?と言えば、医療法人が損失を計上して迷惑を被ることとなる他の社員や理事・監事がその代表格になります。特に以下の様な法人の場合にはかなり注意が必要であると考えています。

 

  • 社員や理事に親族以外の他人がいる。
  • 社員や理事は同族だがあまり仲が良くない

※特に夫婦間・兄弟間・親子間で争いごとの火種がある場合には要注意です。

  • 出資持分あり医療法人で出資金の相続対策として出資持分が複数の親族に分散している。

 

こういう医療法人は、今回の法改正により将来、問題が勃発する火種を抱える事になります。MHPや養老保険を使った「逆ハーフタックスプラン(GHT)」などの「配当類似行為」という医療法違反で個人資産を蓄積した場合、その事をよく思っていない社員や理事が訴えれば一発でアウトです。

 

その前にそもそも医療法人における契約者変更プランは医療法54条違反であることは忘れてはなりません。

 

<医療法54条>

医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。

 

医療法人運営は「非営利」が原則です。事業で挙げた利益を構成員に分配することを「営利」と言いますが、医療機関においては利益を挙げても構成員に分配することは禁止されています。医療法人が配当を出せないのは、この「非営利性の原則」があるからです。

 

解約返戻金が低い時期に個人へ契約者名義を変更し、その後に保険料を支払えば解約返戻金が増えるタイプの保険は、「配当類似行為」として定義付けされていますので、医療法違反となりますので、くれぐれもご注意下さいませ。

 

 

医療法人を税メリットだけで設立した先生方にとっては、益々受難の時代が来たと言って良いかも過言ではないかも知れません・・・・

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

 

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