COLUMN

全額損金タイプの生命保険に対する正しい対処法

最近、数名の経営者から、支払保険料が全額損金になるタイプの生命保険に加入しているが、どう対応するのが良いか?という相談をいただきました。

 

2019年の法人税基本通達改定前に大流行した、支払保険料が全額損金算入になり、途中で解約した際には解約金が発生するタイプの生命保険です。

 

結論から申しあげますと「即解約」が正解だと私は回答しています。

 

もちろん保障が必要だという場合には、そのまま継続するのも一考です。

 

ですが、支払保険料を損金にすることが主目的の契約については、一刻も早く解約することが最善の策です。

 

これを丁寧に解説します。

 

法人における生命保険活用を検討する際は、支払保険料の損金割合は一切関係なく、解約返戻率のみが重要です。

 

支払保険料の全部が損金処理できる商品であれ、40%の損金処理であれ、解約返戻率(支払保険料に対する解約返戻金の割合)が100%を下回った分だけ単純に損をしています。

 

もちろん生命保険の主目的は保障確保ですから、支払保険料から解約返戻金を差し引いた額に差額が発生し、解約返戻率が100%を下回った場合に、この部分を保障コストとして容認できるのであれば全く問題ありません。

 

ですが当時の全額損金タイプの生命保険は、災害保障タイプと呼ばれる第一保険期間中の死亡保障額は責任準備金程度となっている商品が多くあります。

 

この災害保障タイプにおいても、支払保険料と解約返戻金の差額を保障コストとして考えるのかどうかのご判断は、皆さまにお任せします・・・

 

当時の全額損金タイプは、解約返戻率のピークが85%程度の商品が多かったので85%を目安に確認をします。

 

解約返戻率が85%ということは、保険料100を支払っても85しか返ってきません。

 

単純に15減っています。ここまでは誰にでもわかると思います。

 

例えば、ピークまであと5年あった場合、毎年100支払って15の損ですから、5年で75の損を出していることになります。

 

ただし年度によっては解約返戻金の増加割合が異なりますので、実際に検証される際は、実際の保険証券で年間保険料に対して、幾らの解約返戻金が増えているかを必ず確認をしてください。

 

「でも支払った保険料が損金になっているので、法人税が軽減されているじゃないか!」

「法人税軽減分はトクしてるだろう!」

 

と反論される方もおられるでしょう。

 

確かに保険料支払時は損金になっていますが、解約時には返戻金が益金になり、ここで課税されますから意味がありません。

 

「だから生命保険は出口が重要で、役員退職金などの損金で解約時の益金を消せばメリットがあるだろう」

と反論される方もおられるでしょう(笑)

 

退職金損金は保険効果とは全く別モノなので一緒に考えてはダメです。

 

仮に生命保険を使わずに積立をしていた場合、その積立金で役員退職金を支給すると、支給した役員退職金の全額が、法人税法上の損金として認められると、損失として計上します。

 

当該事業年度において役員退職金の損失で赤字になった場合、この赤字は繰越欠損金として10年間繰り越せますので、将来の法人税を軽減する効果があります。

 

ということは、全額損金タイプの保険は、法人税軽減効果を先取しているだけに過ぎず、しかも解約返戻率が100%を下回った分だけ損をしています。

 

「でも役員退職金を支給する事業年度を赤字決算にすることはできないので、解約金の益金は意味があるのでは」

と反論される方もおられるでしょう笑笑

 

役員退職金については、「役員退職金引当金」を計上して貸借対照表上に積立をしておけば全く問題ありません。

 

「役員退職金引当金」の詳細はここでは割愛しますので、こちらのページをご確認下さい。

 

ここまで確認をすると、生命保険の出口対策は単に退職金税制を活用しているだけで、生命保険とは何の関係もないことがお分かりいただけると思います。

 

ただ、ご注意いただきたいのは、私は生命保険を活用した退職金積立は意味がないと言っているのではありません。

 

生命保険による退職金積立は、死亡退職金支給原資も確保できるので意味があると思っていますし、実際に多くの経営者に活用していただいております。

 

ただ退職金準備の生命保険商品については、支払保険料の損金割合に関係なく、十分な死亡保障を確保しつつ、解約返戻率が100%になる商品を選んでいただきたいものです。

 

 

話しを全損保険に戻します・・・。

 

 

先ほど確認しましたように、解約返戻率85%であれば15%は損をします。

 

そのために早めに損切りをして、同額の保険料で解約返戻率が100%になる商品へ切り替えた場合は、15%の損がなくなります。

 

ですから全損タイプの生命保険の保障が不要であれば、そのまま継続せずにすぐに解約して解約返戻率100%超が狙える商品に切り替えるべきです。

 

経営者の皆様には、シンプルに「続けると損しますよ」と説明しています。

 

そして災害保障タイプに加入されているのであれば、病気死亡でも保険金額が満額支払われて、かつ単純返戻率が100%を超える保険商品に切り替えた方が合理的だと思うのですがいかがでしょうか?。

 

なお私は、保険料の全部または一部を損金計上できる生命保険商品を否定している訳ではなく、解約返戻率は100%よりも下回るが、死亡保障のコストを考えて、あえて100%の返戻率が確保できない保険商品も、実際には多くの経営者に活用していただいております。

 

私が否定しているのは、損金確保を主目的にした生命保険契約であることを、最後に付け加えておきます。

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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