COLUMN

Case4:生命保険を活用した役員借入金対策

<お客さま概要>

年商:40,000 万円
業種:内装工事業
代表者:70 代男性 創業会長

 

〈相談内容〉

提携先の会計事務所からの依頼で巡回担当者と同行訪問をしました。当初は既契約の内容を分析して、見直しが必要であれば何か提案をしてほしいとのご要望でしたが、「役員借入金」の問題を提起で雰囲気が一変しました。

 

 

事務所へお伺いすると創業者である会長と経理を担当されている会長の長女に出迎えていただき、応接室へ通していただきました。名刺交換をして座らせていただきましたが、お二人とも「保険屋」の私に対して警戒心があるのがありありと感じました。そして私を試すかのように、用意されていた生命保険証券を差し出されました。

 

中身を拝見すると被保険者は会長になっている個人契約の定期付き終身保険で、すでに保険料払込は終わられており、終身保険だけがわずかに残っている内容でした。

 

「保険はこれだけですか?」と質問をすると「これだけです」と素っ気ない反応。会社の業績や経営状況なども何もわからず訪問しましたので、会計事務所の依頼とはいえ、通常の保険営業と同じように中小企業経営者が抱えておられるであろう課題について幾つか投げかけしました。その中でようやくヒットしたのが「役員借入金」です。


過去に業績が良かった時代、かなりの役員報酬を取られていて、その際に築いた個人資産を、業績が悪化してきた際に投入されており、数千万円の貸付金(法人から見れば社長からの借入金)があるとのこと。

 

この役員借入金が抱える問題について指摘しました。大きなポイントとしては、


①家族から見れば、相続発生時には貸付金は金銭債権として相続財産に加算されること

②そして家族が債権放棄をすれば、法人では債務免除益があがり課税対象になること


です。このことを簡単に説明したところ、今までかなり冷たい反応だった長女の表情が一変しました。「それ、どういうことですか? もう少し詳しく聞かせて頂けませんか?」ということで丁寧に説明をしました。

 

私の説明を聞いて理解された会長が、会計事務所担当者の方をみて「一応、それなりに対策は打ち合わせをして考えているけどな・・・」とお話をされたので「どのような対策ですか?」とお聞きしても茶を濁すような反応で詳しくは話しをしたくなさそうな様子でした。


こういう経営者には、こちらからガンガン情報を出していくことで態度が変わることが多いので、会長を見ることなく長女に向かって「生命保険を使えば効果的に役員借入金の返済ができる方法があります」と言って役員借入金返済プランを説明しました。


まずは「契約者=法人・被保険者=会長・死亡保険金受取人=会長の親族」とする契約形態です。この契約形態であれば、支払保険料は被保険者の給与になるというのが一般的な解釈ですが、被保険者の給与=経済的利益の供与となり、実質的に法人が保険料を立て替えているのと変わりがありませんから、役員借入金返済に充当する仕訳も考えられます。

 

実際に平成24年1月13日の逆ハーフタックスプラン(満期保険金受取人=被保険者、以下GHT)の最高裁判決において、『前者の部分(本件貸付金経理部分)については、被上告人らが本件会社等からの貸付金を原資として当該部分に相当する保険料を支払った場合と異なるところがなく、被上告人らにおい
当該部分に相当する保険料を自ら負担して支出したものといえる』という表現があり、給与以外の処理も認めています。この契約形態ですと、相続発生時には法人が保険金を受け取ることができ、その保険金で役員借入金の返済が出来ます。


「契約者=法人・被保険者=会長・死亡保険金受取人=法人・満期保険金受取人=会長」とすれば、支払保険料の1/2を損金にしつつ残りを役員借入金の返済に充当できると説明しました。そして満期時には会長が満額を受け取り、返済を受けた金額以外の部分について一時所得課税で1/2ができることをお話しました。

 

さらに死亡時には、法人が保険金を受け取るために借入金返済部分についても益金となりますが、課税後の残額は遺族に対して役員借入金返済の原資にできることを説明したところで、今度は会長が身を乗り出してきて「これええな!これやろう」と即決をされました。

 

ただ気がかりだったのが、社長のご年齢で養老保険に加入できるかどうかです。その場で保険会社に電話をして確認をしたところ、残念ながら会長の年齢は養老保険加入対象外であり、GHTが使えないことが判明して会長はちょっとがっかりされました。


ただ会長と長女の私に対する見方が「保険屋」から少し変わり、経営に役立つ情報を持っている人と認識をしてもらえた様子で、役員借入金に対する対応策を次回提案させていただきたい旨お伝えすると、長女からは「それはそれでお願いしたいのですが、私と主人の保険についても見直してほしい」というご依頼が出て、現在加入されている保険証券を拝見しました。その内容も踏まえて、次回提案することで了承をいただきました。


2週間後、私が訪問をして提案をしたプランは以下の通りです。

1)被保険者=現社長

10年定期保険

保険金額1億円 

目的:借入金対策+死亡退職金準備(家族への支払)

 

2)被保険者=社長と長女 

10年ドル養老保険

保険金額各1500万円 

目的:逆ハーフタックスプランによる役員借入金返済。

なお役員借入金の債権を会長から現社長と長女に毎年贈与し、その借入金をGHTにて返済


3)被保険者=会長 

終身医療保険

入院日額1万円

目的:医療保障と役員借入金の返済

その他にも現社長と長女には個人契約の終身医療保険を提案しました。

 

かなりの契約件数を提案したので長女は混乱されならがらもメモを取り、必死になって理解されようとしておられました。すべて説明をした上で「しっかりと検討をして早急に回答します」とのこと。

 

そして会長が一言「ワシに返済することで会社の資金繰りが悪くなったらアカン。無理に返していらんから、しっかりと積立できる保険の方がええんちゃうか?それやったらワシは何も言わんからな」とおっしゃいました。

 

この言葉を聞いて、経営を譲った会長の気持ちを察しました。そのために急きょその場で、養老保険を逆ハーフタックスプランにするのではなく、すべての受取人を法人にする「資産計上プラン」を提案しました。役員借入金返済は損金にならないので、保険料も損金にこわだる必要がなく、全額資産計上して積み立てておき、相続発生時には取り崩して返済に充当ができ、経営上資金が必要になれば、この積立を取り崩して活用ができることを説明。


会長は静かに頷きながら黙って私の説明を最後まで聞き、一言「ワシは何も言わんから好きにしたらええ」と言われて応接室から立ち去られました。残された長女は「父がああ言ってますので、最後に説明していただいたプランで。他はご提案通りに契約手続きをお願いします」と言われ、総合計の月払保険料約30万円のご契約をお預かりいたしました。

 

役員借入金は多くの中小零細企業で見かける勘定科目です。そのまま放置しておくと、将来的に思わぬ税負担が発生することもありますので、対策はお早めにご検討ください。

 

 

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※弊社代表の奥田が業界紙「保険情報」にて連載しているコラム「実践!法人契約獲得のケーススタディ」より転載しました。

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