COLUMN
Case1:新通達下での退職金準備
~私の代か、息子の代での節税か~
●目次
お客さま概要
業 種:製造業
相談者:創業社長(男性)
年 齢:55 歳
年 商:3億円
懇意にしてい税理士から「関与先の社長が退職金積立をしたいので提案をしてほしいと言われているが、法人税基本通達が改正になり、生命保険を使った退職金積立はメリットがないように思うので、何かよいアイデアがあれば教えてほしい」とのメールが届き、この税理士事務所を訪問しました。
関与先の概要をお伺いすると、以下のような内容でした。
①社長が職人から始めたモノづくりの仕事が少しずつ大きくなってきて、高い技術力を売りにして今や年間3億円の会社へ作り上げた。
②息子さんが後を継ぐべく、数年前から会社に入って今では専務として実務を仕切るようになり、ご自身もよいお歳になってこられたので、そろそろ将来を見据えての事業承継準備に入っている。
③その中で退職金積立を始めたいのだが、生命保険を使った積立では効果が出しにくくなっている現状、どうしたものか?
④社長のご希望は65歳までには息子の専務に代表権を渡して、自分はほぼ関わらずに何かあれば相談に乗るくらいの立場で悠々自適に暮らしたいとのご意向とのこと。そのためにはある程度まとまった退職金を無理のない範囲で貰えれば・・・・
というご希望でした。
現状の生命保険を確認すると、国内生保の保障目的の定期保険があるだけで、これでは退職金積立にはなりません。しかもこの保険会社は保険期間の延長ができないため、この契約を活用することはできません。ただ変換はできるのですが、この年齢で長期平準定期に変換をしても返戻率は高くなく、しかも
新税制の適用を受けるので課税繰延効果もありません。
まずは関与先社長のご要望をお伺いして、詳細に検討してみることをお伝えして了承をいただきました。
「入口損金」が「出口損金」に
幾つかのパターンを試算しましたが、定期保険系では返戻率と繰延効果をみてもメリットがなく、外貨や変額の終身保険を使えば何とか65歳前後で解約返戻率は100%近くになることを確認しました。
これを踏まえて、この税理士へは、
❶死亡退職のリスクを考えると、生命保険を使って退職金積立を検討すべきだが、従来の定期保険ではたしかにメリットが出せない
❷唯一、メリットが出せる可能性があるのは外貨や変額の終身保険であり、この場合為替リスクや運用リスクが発生する
❸会計的には「役員退職給与引当金」を活用すれば、支払保険料は損金にならずとも出口で効果が出せる
の3点をお伝えすると、税理士からは一度、関与先社長に会って提案をしてほしいとの依頼を受けました。
税理士のセッティングで、関与先社長とお会いさせていただき、今回の法人税基本通達の改訂について簡単に説明をし、生命保険を使った課税繰延ができなくなったことを説明をした上で外貨と変額の終身保険をご提案。
私の提案を聞いた社長は「保険料が経費にできないのはあまり面白くないね」とつまらなそうな反応でしたので、私から次の説明をしました。
「社長、支払保険料は損金にはなりませんが、ご勇退時に退職金として積立金を支払うと退職金は一定額までは損金になりますから、この退職金損金はその後に利益を挙げても法人税を安くする効果がありますので、長い目で見れば同じなんです。今までは保険料が損金になっていたので、解約時の益金を退職金損金に充当させてきただけなので、一言で言えば『入口損金』が『出口損金』になるだけですよ」
この説明を聞かれてもまだピンと来られていない様子でした。そして「この積立をより効果的に行うために『引当金』を会計上、積立していくんです」とお伝えをしたところで同席の税理士が説明を始めました。
「引当金とは将来の支出や損失に備えるために貸借対照表の負債の部で積み立てる金額です。たとえば退職金は、退職金を準備する期間はある程度の年数が必要なのに退職金を支給する事業年度は原則1年です。この準備期間と支給時期との会計上のバランスをとるのが『引当金』という仕組みです。ただ現在は、役員退職給与引当金は税法上の損金としては認められていないので、あくまでも退職金支給時に赤字を出さない仕組みになります」と説明をし、次の様に説明を続けました。
「例えば、5,000万円の退職金を10年間で準備をするとすれば、1年あたり500万円になります。これを決算書上で引当金を計上すると、決算書では利益は500万円減りますが、法人税の計算ではこの500万円は引けないので、法人税申告書で加算をして税金計算をします。この処理を10年続けて10年後の事業年度に退職をされる際、5,000万円の役員退職金を支給すると、引当金を計上していなければ5,000万円の赤字になりますが、引当金を計上していれば、会計上の積立金を取り崩すので赤字にはならず、でも法人税を計算するときは5,000万円を差し引けるので、法人税は安くなります。さらにこの5,000万円の法人税計算上の赤字はその先10年間は使えるので、専務が社長になった後、しばらくは法人税の負担がないというメリットもあります」と説明をされ「一言で言えば、私の代で節税するか息子の代で節税するかの違いという理解でよいんですよね?」とおっしゃり税理士と私はうなずきました。
「将来のことは分かりませんが、少なくとも私が辞めるまでは余程のことがない限りこの会社も大丈夫だと思いますし、息子が経営をする時に税金が安くなるのならそれもよいかもしれませんね」とおっしゃりながら、私が提示をした設計書を改めてご覧になられていました。
勇退時の状況を多面的に考慮
そして私から次のようにお伝えしました。「従来のいわゆる『節税保険』と言われているような生命保険の場合、法人税の繰延効果はあったのですが、残念ながら解約時の返戻率が高くないんです。ただご提案したこれらの保険ですと、ご勇退時期が65歳より多少前後しても保険としては払って頂いたお金はほぼ戻ってくることと、為替や運用によっては目減りする場合もあれば増える場合もあります。このリスクを取って頂ければメリットがあると思いご提案しました。さらに実際にご勇退されるときの健康状態や財産の状況によってはこの保険を解約せずに、現物の退職金として個人へ名義変更して続けるという選択肢もあります。なおこれらの保険は、状況によっては他の保険へ変換することで、積立金を引出しながらも一定の保険料を払えば保障を継続させることもできるので、相続税納税資金や遺留分対策資金などにも活用することができます。単にお金を積み立てる生命保険ではなく、先の先まで見据えた上で活用することを踏まえて保険会社と商品をご提案しました」
社長が「なるほど~生命保険といっても奥が深いんですね~」と少し唸りながらおっしゃり「金額と内容は先生と相談をして決めますが、個人的には毎月の支払額が変わらないコチラ(変額)がよいかなぁ~と思ってます」とおっしゃいました。
「最終的なご判断はもちろんお任せしますが、変額の場合、運用実績で解約金が増減する点はご注意下さい。逆に言えば運用実績が悪い場合、解約金が減っていますので、その分安い価格で個人へ保障が渡せるという効果もありますので、運用実績が悪くてもそれはそれでリカバーは多少できます」とお伝えすると、今度は同席していた税理士が「なるほど~それはそれでいいですね」とおっしゃいました。
最終的には、リスク分散のために外貨建て終身保険と変額終身保険を半分ずつでご契約をお預かりすることになり、これからの時代は「入口損金」の時代から「出口損金」の時代になったと感じた事例でした。
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